もう終わりが来ても怖くない
あなたと共に歩いていくから


世界の裏切り 第67話


私たちは昨日、子供の時そうであったように、同じベッドで一緒に寝た。手を繋いで目を閉じれば、やっとあの頃の私たちに戻れたのだと嬉しくて。何も話さなかったけど、お互いにじっと見つめ合っていた。
そして今はシャルにメールを打っている。彼は恋人だし、きっと心配かけていただろうから今回のことをを連絡しないと。
昨日イルミの部屋が壊れてしまったことによって、暫くは彼と同じ部屋で過ごすことになった。今はトレーニングルームに行っていていないけど。
『To シャルナーク
Sub 仲直りしたよ
連絡が遅くなってごめんなさい。あれからシャルには連絡していなかったけど、無事にイルミと仲直りしました。どうやら二人ともお互いを想う余りにすれ違っていたみたい。こんなことならもっと早く向き合っていれば良かった。そんなこと思ったけど、私に彼と向き合う勇気をくれたのはシャルなの。感謝してもしきれない。今はまだ昔のようにとはいかないけれど、少しずつ元通りになっている途中なの。
暫く家に居るつもりだけど、もしかしたら流星街に行くかもしれない。シャルが家に遊びに来てくれるならとても嬉しいけれど。
クロロと皆によろしくと伝えておいて。また連絡します。』




彼女から送られてきたメールを見て、最初は仲直りしたんだ、と安心したりまぁ良い方の感情がいくつかあったけれど、どんどん読み進めて行くうちに気分はすっかり地に落ちた。
「あー、もう!!何だよ、恋人みたいにくっ付いてさ!」
の恋人は俺だろ!?ホームの広場にてむしゃくしゃとして叫んだ言葉は当然周りにいる者たちには筒抜けだ。今このホームに留まっているのは7人だが、そのうちの4人はこの広間にいる。その全員が何だというように訝し気な目を向ける。
俺がむしゃくしゃとしたのは、文章の最後に添付されていた一枚の写真だ。一組の男女がぴったりと寄り添い画面を見ている。一人は言わずもがなだ。どうやったのかは分からないが髪の毛が依然と同じ長さになって、嬉しそうに笑いながらピースをしている。もう一方は彼女の双子の兄だ。確か名前はイルミ。無表情だがしっかりと彼女の肩を抱いて此方を見てくる。まるで彼女は自分の物だと言っているかのような表情――もちろんそれは被害妄想だろうけど――がとても腹立たしい。
ゾルディックの人間は写真だけでも億単位で情報を買ってくれるからこの写真を彼女だけ消して売ってしまおうかと考えたけれどそれは止めた。そんなことをしたら彼女は悲しむし、俺への信頼もなくなる。
「はあ……憎たらしい奴め」
「どうしたの、シャル」
ぐっと握り締めた携帯を睨んでいる俺を、パクが覗き込む。まあ、彼女になら良いかと思って送られてきたメールを見せると、彼女は無言で文章を読み最後の写真を見て、良かったわねと呟いた。姉という概念が俺の中にあるとしたらまさにそれがするだろう微笑みを浮かべた彼女に、思わず言葉を失う。
そうか、彼女はの記憶を一度見ているから。きっとイルミとの関係も全部分かっているのだ。俺はただ、仲直りをしたという事実しか知らない。何があって、どうして彼らが喧嘩をしていたかさえも知らないのだ。だけど、自分が彼女に勇気を与えたというなら、それで良いのかもしれない。
「兄弟に嫉妬するなんて見苦しいわよ、シャル」
「うるっさいなー!俺だってこんな筈じゃなかったんだよ!」
ふふふと笑った彼女に眉を吊り上げる。――本当に、そんなつもりじゃなかった。彼らの仲を喜ぼうとしたのに、いざ彼女が彼の腕の中で幸せそうに笑う姿を見てしまえば、そんな感情が嘘だったかのように消え去ってただ独占欲が胸の中で渦巻く。出来るならゾルディック家へ忍び込んで彼女を掻っ攫ってしまいたい。それこそ、本当の盗賊のように。隠された恋人を盗み出す、一番達成感のある仕事。
「悪い顔しているわね」
「別に。ただ、こんな男よりももっと俺の方に夢中にさせてやるって思っただけさ」
欲しい者は奪い取る。それが幻影旅団だ。俺はその幻影旅団の参謀だ、彼女を夢中にさせるなんて造作もない。きっと、イルミからだってその心を奪ってやる。そして、俺こそが彼女の本当の恋人になるのだ。
――ただ、今は幸せを噛み締めていて。近いうちに、俺が必ず君の心を奪いに行くから。
俺は携帯の中で幸せそうに微笑んでいる彼女を見つめて笑った。


2014/03/27
完結。

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