初めてじゃないでしょう?
誰かがそう呟く
だけど私はいつになっても慣れはしないのだ


世界の裏切り 第44話


仮宿という名の廃墟に住むことになって五日目。未だにまともに話せる人物は少ないが、今では女性三人とシャルナークに加えてノブナガ、フランクリン、コルトピ、ボノレノフ―彼の場合は話すこと自体が珍しいが―の四人とは話すことができるようになった。
クロロとはごくたまに話したりするが、髪を上げている時は威圧感が強く圧されてしまう事が多い。一度髪を下ろした状態でのクロロと話した時はあまりの性格の豹変ぶりに同一人物には思えないと感じたものだ。
どうやら彼は普段から髪を上げているわけではないことがマチたちの情報から分かった。所謂イメージ作りよとパクノダが言っていたのはつい先日のこと。
だが根本的な部分は同じ性質なのだろう、髪を下ろしていても真剣な顔付きだと髪を上げている時と同じ威圧感がある。
他の三名とは未だに話したことは無いが、少し離れた所で会話を聞いているとフェイタンだけを除いて悪い人ではないようだ。あと一人の団員は見ていないから分からないけれど。
なぜならフェイタンが皆と行動することが極端に少なく、彼の性格を知ることが出来ないからだ。だが初日の印象からして、あまり人と馴れ合うのは好きではなさそうだ。
そう思いながらもマチたちとの会話を弾ませて笑顔になる。辛気臭いと言われたあの日から、私は空元気にならない程度に笑うようにしている。
やはり笑うという行為はとてもすごい事で、たとえ気分が上がっていなくても笑えば少しは上昇するのだ。笑顔には力があると最近実感した。
が笑っていると俺まで楽しくなるな」
「あんたはいつもヘラヘラ笑ってるでしょ」
「ひっでえ!マチなんていつもツンツンしてるくせに!」
笑いながら行われている二人のやりとりに思わず笑い声が漏れる。くすくすと笑っている様子を少し離れた所からウヴォーが見ているとは知らずに私は笑い続けた。
「全く、心外だね」
「俺だってそうだよ。けどが笑ってるみたいだから良いや」
ふわりと笑んだシャルナークにごめんねと笑いながら謝る。彼は私を旅団に導いてからずっと私の事を気にかけていてくれる。きっと責任感の強い人なのだろう。
情報処理を担当としている彼のことだ、色々なことに気を使う人物に違いない。こんな良い人と出会えて本当に良かった。
そう感じていると、瓦礫の上で黙々と読書を続けていたクロロが顔を上げて仕事について述べる。
「明後日、を連れて仕事に行ってもらう。メンバーはフェイタン、ウヴォー、シズク、フィンクスだ。此処にいない奴には後で知らせておけ」
唐突にそう言ったきり彼はまた読書を再開して、文字の羅列から目線を逸らすことはない。多少メンバーの構成に異論を唱えたかったけれど、逃げてばかりでは成長できないだろう。
シャルナークが心配そうに「俺も行けるか頼んでこようかな」と呟くが、大丈夫と彼を安心させるように笑った。緊張はするけれど、此処で逃げては益々馬鹿にされそうだから。
未だフェイタンなどから発せられる不穏な空気を覚えている彼は納得していないように見えるが、私はこの構成に文句を唱えるつもりは無いのだから彼は心配しなくとも良い。何かあった時は全て自分の責任だ。


「じゃあ行ってきまーす」
「美術品壊すなよ、ウヴォー!」
「おう!気を付ける」
、初めてだからって緊張しすぎんじゃないよ」
「うん」
シズクののんびりとした声を機に美術館へ向かうメンバーが廃墟を出る。闇夜に出て行く私の背にかけられたマチの言葉に頷いて走り出した。
初めは慣らすようにゆっくりだったそれも、次第に速さを増し一般人の目では確認できない程の速さになる。
三十分程走り続けた所に目的の美術館があるのを確認して私たちは足を止めた。事前のシャルナークの情報から警備員の中に何人か念能力者がいることを知らされている。
入口の門には二人しか人間がいないが、オーラを見る限りあの二人は念能力者だろう。
さっと飛び出したフェイタンは相手が念能力者であるにも関わらず一瞬で首を刎ねて施錠の着いた扉を壊した。
途端に美術館全体に警報が鳴り響いて少し離れた所から大勢の人間がかけてくる足音が聞こえる。これはきっと彼らにとっては余興なのだろう。
前にいるウヴォーが楽しみだというように指の骨を鳴らし、前方を見つめている。数十秒経つと私たちの周りは100人程度の警備隊によって埋め尽くされた。
「てめえら生きて帰れると思うなよ!!」
「それ、ワタシたちの台詞ね」
フェイタンが目を細めて相手を挑発した途端、銃撃が始まった。放たれるマシンガンの弾にあたらないようにしながら、仲間たちと少し離れた所に飛び退く。
これだけ離れていれば念を使っても能力を知られることはないだろう。
「あなたたちの仲間を殺しなさい」
私を追ってやって来た数十人に向かって言葉を放つ。途端、体の自由を奪われた彼らはお互いに向かって銃を乱射し始めた。
銃の威力が強く、彼らの身体が脆いことによって十数秒で片付いた。
「お前中々やるな!」
血一つ付いていない私の身体を見てウヴォーがニカッと笑う。お前の事誤解してたぜ!とバシバシ背中を叩いてくる彼のせいで前へつんのめりそうになるが、彼に認めてもらえたことが嬉しくてそんな事は全く気にならない。
「ウヴォーの方が強いけどね」
「まあな!」
自分の思った通りに考えを述べれば、そりゃそうだと彼はがはがは笑う。こういった豪快な所が彼にはよく似合う。
ウヴォーと普通に話せて良かった、と歩いているとあからさまにチッという舌打ちの音が聞こえた。たぶんフェイタンのものだろう。
入口で倒した警備員たちが配置されていた全ての人間だったらしく、美術館の中には誰の気配もしない。
シズクは今入口を汚してしまった血や肉片を掃除する為に門で待機している。早くお目当ての絵を盗って帰ろうと目の前の絵を掴んでウヴォーに渡した瞬間、それは起こった。


2012/04/14

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