何かを求めてる
それが何なのか私には分からない
だけどそのこともすぐに忘れてしまうのだ


世界の裏切り 第43話


「蜘蛛の補佐としてを仲間に迎えた。異論は聞かない」
「よろしくおねがいします」
12人という人数の前で頭を下げる。どうやらこの前の人数の約三倍の人数で行動をしているらしい。今日は一人欠席らしいが、一人増えても居なくてもこの人数の前には関係のない事だった。
あの日――シャルナークが手を差し出してくれた日に、私は幻影旅団という組織のことを聞かされた。そしてそれが彼らだという事も。
初めはこんなに優しそうな顔をした彼らが人を殺していたという事実に驚いたが、実力を考えてみればそれは至って当然の事に思えた。
強くなればなるほど強者を引き寄せることになるのが念能力者にとっては必然的なのだから、ついて回る運命だと受け入れなくてはならない。
たった今、団長のクロロから私の事を紹介してもらったが、中には私の事を気に食わないという顔で見ている者がいるのが分かった。
女性三人はさして気にしているようには見えないが、男性の中で三人程は嫌だと目で訴えている。それもそうだろう、いきなり知らない人間が自分の大切にしてきた組織の中に勝手に入ってくるのだ、嫌だと思うのも頷ける。
だが分かってはいても、悲しい気持ちを無視することは出来ない。クロロが自室に戻ると彼らもバラけたが、一人―黒尽くめの男だけが私のことを睨んで動かない。
「お前みたいな弱い奴、認めないね」
「……」
「やめなよ、フェイタン」
フェイタンと呼ばれた男の言葉に尤もだと俯いてしまう。私はきっとこの中で一番異質で弱い人間だろう。マチという私と同年代の女の子に咎められて彼はチッと舌打ちをして去った。
きっと言葉にしなくとも彼と同じようにそう思っている者はたくさんいるだろう。はあ、という溜息すら吐けなくて目の前のマチを見つめた。
「アイツのことは気にしない方が良いよ。新人にはいつもああだから」
「ありがとう、マチ」
つんつんしている外見には反して慰めの言葉をかけてくれた存外に優しい彼女に礼を述べると、苦笑された。
「礼を言われるようなことじゃないだろ?」
「マチは優しいね」
ふわりと笑むと、彼女がきょとんという顔をして私を見つめる。何か顔についているだろうかと思って確認するけれどそれらしい物は手に触れない。
いったいどうしたのだろうと思っていると、彼女は驚いたというように口を開く。
「あんた、今みたいに笑ってた方が似合ってるよ」
「―どういう…」
「辛気臭い顔は似合わないってことでしょ?あ、私シズク」
「本当にあんたはいつも毒舌だね」
急に会話に入ってきた黒髪の少女―シズクの言葉に一瞬驚くがそれが常なのだとマチから聞かされてそうなんだと笑った。
辛気臭い、確かにそう言われても仕方のない顔をしていると思う。シズクが指摘してくれてよかった。そうでなければ私はずっとそんな顔をしていただろうから。
「そうそう、今みたいなのが良いよ」
「そっちの方が絶対綺麗だよ」
「ありがと」
二人から笑顔が良いと教えられて私は自然と微笑んだ。何人かには嫌われているけど、この二人とは友達になれたのだ、きっと時間が経てばフェイタンとも友達のように話せる日が来るかもしれない。


「チッ」
今日の昼ごろに紹介された銀髪の女の顔が頭にチラついて訳も無く苛々する。あれがソルディックの娘だなんて笑える。
自分と同じようにウヴォーとフィンクスは彼女のことを良く思っていないようだったから、益々その思いは強くなる。
あんな腑抜けた顔をして立っている奴がゾルディック家の者の筈がない。あんな、誰も殺せそうな顔をしていない人間が旅団に入ることがフェイタンには許せなかった。
団長も能力の為だか知らないが、余計なものを加えて。ゾルディック家の報復など恐れないでさっさとあの娘の能力を奪えばそれで済むのに、とぎりぎりと歯軋りをする。
あんな奴が仕事について来たら足手まといになるに決まっている。もしそうなりそうだったら、団長には悪いが混乱に乗じて殺してしまおうと彼は決意した。
戦闘中に死んだと言えば、嘘だとは分かっていても何も言われないだろう。団長は物には執着しない人間だ、きっとすぐにあの女のことなんて忘れてしまうに決まっている。
フェイタンは薄暗い部屋の中でニヤリと口元を歪めた。


2012/04/14

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