新たな旅立ちも良いだろう
それがあなたにとって意味のあるものでありますように


世界の裏切り 第39話


「私はこれから本格的に仕事を探す」
「俺は故郷に帰って医者になるために猛勉強するつもりだ」
「私も仕事を始めようと思う」
「じゃあ、俺たちは天空闘技場へ行く!」
ククルーマウンテンを下りて飛行場へ着くと、お互いの進む道を言葉に表した。最後の別れにならないために私たちはまた会おうと約束をした。
クラピカとレオリオの乗る飛行船が早かったため、彼らはすぐにいなくなってしまったが、その前に連絡先が書かれた名刺を彼らに渡しておいた。
これでまた会うときは連絡できるだろう。最後に彼らは笑って手を振っていた。
「キル、私はマンションの方に戻るけど、いつでも帰っておいで。もちろん、ゴンも一緒にね」
姉……サンキュ」
「ありがとう!!!」
嬉しそうに笑う彼らの頭にぽんぽんと手をのせて、二人そろって抱きしめた。そうすれば二人とも照れてしまってじたばたと腕の中で暴れたけれど、気にせず抱きしめ続ける。
私が乗る飛行船のアナウンスが聞こえて漸く彼らを離すと、二人とも顔を赤くしていた。暫くこの顔が見れないのかと思うと、自然と寂しくなる。
「じゃあね、二人とも。何かあったら連絡して」
最後にそう言って二人とは別れて飛行船へ乗った。


それから約1か月後、私は演説屋として周囲に知られるようになってきた。無論、本名は使わずにLILY(リリー)と名乗っている。
仕事の内容は主に社会的に貢献していると認められる仕事や慈善活動などのアピールを本人に代わって私が人々に語りかけ納得してもらうというものだ。
言うまでもなく、この仕事には私の念能力である天使の囁き(スイートボイス)―半径10メートル以内にいる人物や物質に声で働きかけて思うままに操る能力―を使用している。
私が命令することは全て従わせる能力なので、それ故悪事には使わないようにしている。ごくたまにだが、そういった悪事を働く政治家なども自分をアピールさせる為に慈善事業をするが、その時なら私は仕事を請け負うようにしていた。
その甲斐あって私は数々のパーティーに呼び出されることが多くなり、自然とドレスがクローゼットの中で存在を主張することになる。
若しかしたら普段着よりもフォーマルドレスの方が多いかもしれないと思い、今度は普段着をデパートに買いに行くかと決断した。
話がずれてしまったが、仕事が忙しく入っているため生活資金は不足していないが、人前で話すという慣れない行為もしているからか、私は最近疲れている。
唯一癒されることはキルアやカルトからの電話やメール、また録画しておいた動物のドキュメンタリー番組をお風呂の後に紅茶と共に眺めることだ。
もう少し時間が立てばこの仕事にも慣れてくるだろう。仕事の度に心得が増えていくのだから、きっと今よりテキパキ出来る筈。
『――月21日、…美術館に幻影旅団と思われる盗賊に絵画を奪われ―』
ニュースのアナウンサーが襲われた美術館の前で現行当時の様子を語っている。私はそれをパソコンの画面に映し出されている依頼書を読みながら眺める。
世間は今、A級犯罪者の集まりである幻影旅団についての話で持ちきりだ。彼らは尽く美術品や骨董品などを略奪していく集団で、彼らが通り過ぎた後は死体が山のように転がっている。
私も元犯罪者なだけに彼らの事はとても気になるが、それは私や大切な人の安寧の日々を壊すかもしれない存在として警戒しているだけだ。
父様から幼い頃、幻影旅団にだけは手を出すなと言われているのも相まって、彼らにはなるべくなら、否絶対に会いたくない。
プチ、とリモコンでテレビを一旦消して依頼人に了承のメールを送る。今度私が呼ばれるパーティーはゾルディック家のお得意様でもある人物からで、私も以前2回程暗殺の依頼を受けているので顔見知りではあった。
その彼が自宅で政界パーティーを開き、慈善活動として『世界の貧しい子供たちのためにワクチンの寄付金を集めよう』というコンセプションの演説をすることを私に依頼したのだ。
その仕事内容だけなら、今まで彼がどんなにライバルを蹴落とすために私の家へ暗殺の依頼をしてきた極悪人でも、私の力を駆使して頑張ろうと思っている。
それに、どうやらこの政界パーティーにはイルミも誘われているらしく、依頼人からのメールに書かれていた。
それを読んだ時は依頼を受けようか正直の所迷っていたのだが、きっと人混みが嫌いなイルミは来ないだろうと予想して受けることに決めた。
実の所、ほんの少しだけイルミの顔が見れたら良いなとは思っていたのだが、彼が来るとは限らないし見ることが出来たとしても私が動揺して体調を崩すかもしれないからやはり会わない方が良いのだろう。
いつになったらイルミとあの頃のように過ごせるのだろうと考えて、だがその考えに溜息を吐いて掻き消して私は浴室へ向かった。


2012/03/31

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