時は金なり
その言葉どおり、今を大切にしたい


世界の裏切り 第37話


姉様、一緒に寝て良い?」
「良いよ、こっちおいで」
薄く開いた扉から様子を窺うようにしているカルトにおいでと手を招く。それを見て嬉しそうに駆けてくるカルトを軽く抱き留めてベッドに潜り込んだ。
今まで彼に寂しい思いをさせた分思い切り甘やかしてあげようと、すりすり頬を摺り寄せてくるカルトの頭を撫でる。
撫で心地の良いサラサラな黒色の髪の毛は母様譲りのものだろう。私も色は父様譲りだが髪質は母様から譲られた。
着物から寝巻に着替えたカルトはいつもより少年に見える。存外おかっぱで着物が似合っていて女の子に見えるものだから、この容姿は新鮮だ。
「ねえ、姉様は2週間で出て行ってしまうの?」
「うん…。ごめんねカルト、ちょっとしか一緒にいてあげられなくて」
父様との話し合いの結果、キルアも同じ期間で独房から出られるという事もあり、私は2週間後に家を出て行くことにした。
永遠に帰ってこないという訳ではないからいつでもカルト達には会えるが、それでも寂しいのだろう、彼はぎゅうっと私に抱き着いてくる。
私もカルトたちと離れることは寂しいことには変わりない。だから彼には私の住居の場所と携帯電話のアドレスを教えた。これでいつでも好きな時に―といっても仕事以外で外出はないから仕事の前後に―遊びに来たり、電話やメールをすることができる。
私が家を出た後に向かうのは、ハンター試験を受けるために近場の方が良いと思って買った、ザバン市の近くにあるマンションだ。
大陸が分かれているから頻繁に来ることはできないだろうが、月に一回は会えるかもしれないだろう。
「僕、たまに遊びに行くね」
「いつでもおいで」
嬉しそうに莞爾として笑んだカルトに微笑みかえす。その後も他愛のない会話をして、眠りについた。


自称キルア様と様の友達と名乗るゴンという少年から執事室に電話がかかってきて早2週間、本日の朝頃に彼らが本邸を目指していることをゼブロから報告された。その後何時間かして奴らは執事見習いのカナリアと共にやってきて、今私の目の前にいる。
”友達”という言葉だけでも怒りが湧いてきたのに、奴らは試しの門を開けてキルア様に会いに行こうとしていることを聞いて腸が煮え繰り返りそうだ。
僭越ながら、生まれた時から知っているキルア様には親のような感情を抱いているし、イルミ様と双子の妹であらせられる様にもキルア様と似たような感情を抱いている。
長い年月の間、イルミ様と様はお互いの事を愛するあまりにすれ違い、苦しみ続けていたことを傍で見ていた私はよく知っている。
一時は様とキルア様が家を出たことでどうなってしまうのかと思ったが、お二人は無事に家に帰ってきてくれたこともあり、離れていた時に比べたらご両人の深い溝は、少しは埋まると思われた。
だが、お二人は今日この日に家を出て行くことになってしまった。シルバ様が進んで認めたようだが、奥様は断腸の思いで送り出すのだろう。
イルミ様にも今朝、モーニングティーを淹れる為に部屋を訪れたが、どこか常と違って暗い雰囲気を発していた。きっと奥様と同じように納得されていないのだろう。
全ては奴らがお二人を唆したせいだ。お二人がそれを聞いたら否と言うだろうが、奴らの在り方に感化されてしまったのだから、唆したことと同じである。
「許せねえ」
目の前のソファに座っている彼らを睨みつける。キルア様を待つまで退屈はさせないという名目で始めたゲームは今や命を懸けたゲームに様変わりしている。
握ったコインがぐしゃりとつぶれてしまいそうになるがすんでの所で思いとどまった。たぶんあのお二人はもうすぐ本邸を出られるだろう。
お二人が執事室にたどり着くまでの間に、俺がこいつらを判断してやる。


2012/03/31

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