久しぶりの家に緊張する
愛しい人たちは私を受け入れてくれるだろうか


世界の裏切り 第35話


「あそこがククルーマウンテンか」
「すごーい!高いね」
「ゴン、バスの中だ。静かに」
バスの席に座って思い思いに過ごしている彼らをぼうっと見つめる。今から家に帰るのかと思うと、罪悪感や緊張やらで胃が痛みだした。
きっと母様やカルトは私が出て行って酷く悲しい思いをさせただろうし、父様は私に失望したかもしれない。
長女である責任も取らずに自分勝手な行動をした挙句、のこのこと帰ってきた娘を許してくれるだろうか。
だが、まだ責められた方がましかもしれない。もし何も責めずに許されてしまったらその方が罪の意識が強くなってしまう。
「はあ…」
そんなことを考えている自分がほとほと嫌になる。なんて醜い感情なのだろうか。そう感じて自己嫌悪に陥った。
「あんま緊張すんなよ。らしくない」
「ありがとう」
私の隣に座っているレオリオがぽんと頭に手を置き、私の緊張を解すようにわしゃわしゃと乱暴に撫でた。
彼は人の機微に敏感で隠し事が出来ないと思う。今もただ一息ついたように見せかけた溜息も彼には重いものに聞こえたのだろう、年下の彼に気を遣わせてしまった。
そういえば、こんな撫でられ方を父様に小さい頃はよくされていたと小さな記憶が蘇る。懐かしいそれは私に少し勇気を与えてくれた。
「着いた」
「でけえ扉だなあ」
バスから降りると、久々に試しの門に見下ろされることになった。ああ、いよいよかなんて心臓が締め付けられる。私も随分弱くなったものだ。
そして門を開いてしまいたいのは山々だが、賞金首ハンターが二人いるため、まだ開かない方が良いだろうと考える。
その場合ゼブロさんに迷惑をかけてしまうけれど、たぶんミケに食べさせるのが一番面倒ではないだろう。
「何!?門から向こうが全部私有地って……ってとんだご令嬢だったんだな」
「その言い方は無いだろう、レオリオ」
二人の言葉に、驚くのも無理はないよねと苦笑する。私だってこんなに庭が広いと家まで時間がかかるから面倒だ。
と、私たちが談話していると賞金首ハンターがゼブロさんを部屋から引きずり出して、鍵を奪い取り小さな扉から入っていった。
「ゼブロさん、大丈夫?」
「!!お嬢様、お帰りなさいませ!私のような者には身に余るお言葉です」
尻餅をついている彼のもとにいくと、彼は最初目を丸くして、その後私の言葉に感謝をした。
感謝をされる程のことでもないのだけれど、と思っていると、試しの門が開いて中からミケの腕が出て食べた人間の骨を外に捨てている
「キャアアアアア!!?」
ミケの腕を見て怯えた観光客が一斉にバスに乗り込むが、ゴン達を急かしても乗らないと分かったので、あっという間に山を下りて行ってしまった。
「それじゃあ、ゼブロさん。ゴン達をよろしくおねがいします」
「かしこまりました、お嬢様」
「え!もう行っちゃうの?」
門を開けようとしている私にゴン達が寄ってくる。私も彼らと共にいたいのは山々だが、家に帰ってきたならなるべく早く両親のもとへ行かなければならないだろう。
そのことを彼らに伝えれば、残念そうだが納得してくれたようだ。またね、と3人に手を振って扉に手を押し付ける。
たぶん別れはほんの僅かな間だけではないだろうか。そんな思いが胸を過る。
「!!!!」
ゴゴゴゴゴゴ、と重々しい音を立てて扉は“5”まで開いた。前よりはスムーズに開くようになったので、私も少しは成長したのだろう。
「ゴン達ならきっとキルアに会えるよ」
「うん!会ってみせる!!」
扉が閉まるまでの最後、私は彼らに笑顔を向けた。


2012/03/30

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