求めても求められないのなら
いっそこの記憶と共に海にとけてしまえたらいいのに


世界の裏切り 第34話


はどうすんだ?」
説明会が終わってからすぐにイルミと離れたかったがお手洗いに行って戻ってくると、そこではレオリオたちが話し込んでいた。
どうやら彼らは実家へ行き、キルアに会おうとしているらしい。説明会の直後に部屋から出て行ってしまっていた彼女はそれを聞かされて暫し逡巡した。
元々ゾルディック家には一度帰るつもりだったが、イルミと共に帰ることが出来る程彼女の精神状態がよろしいわけではなかったので、彼女は同行することを快く承諾した。
「私の家はパドキア共和国にあるの。飛行船に乗って3日くらいかな」
「そうか、ならチケットを予約しよう」
電脳ページを開いて飛行船のチケットを手配しているクラピカの後ろ姿を見つめる。彼らに何かを言いたい気持ちになったのだが、如何せんこの気持ちがとても感覚的なもので言葉にすることができない。たぶん、こんな感情を覚えたのは初めてだと思う。
その気持ちは気分が悪いものではなく、むしろ心地よいもので自然と心の中が暖かくなる。
チケットを手配した後、ゴンの父親の情報を知るために新たなページを開いたが、彼の父は極秘指定人物に指定されていて知ることは叶わなかった。


「パドキア共和国行はこっちから入るの」
「おおー!」
「なんか新鮮だね!」
「こら、二人とも。他の客に迷惑だから先へ進め」
現在私たちはたくさんの人で混雑している飛行船の搭乗口にいて、飛行船に乗り込む途中だ。彼らは飛行船に乗りなれていないらしいので、私が全ての指揮をとらせてもらっている。
ガラス張りの窓から眼下を見下ろすと街の賑やかな景色が目に入るようで、それを楽しそうにレオリオたちが眺めていた。
私がその様子を後ろから静かに見つめていると、ゴンが振り返って私を見た。
はさ、イルミとはどんな関係なの?」
「おい、ゴン」
純粋に私たちの関係が気になったのだろうゴンが訊ねたが、ナイーブな部分であるため、意外と気遣い屋であるレオリオがゴンを窘めるが、私は彼に別に良いよと返す。
確かにあの試合での尋常じゃない光景や瓜二つの顔―ゴンは直接見ていないがサトツさんが話したのだろう―を見ていたら気になっても仕方がないだろう。
それに今からキルアに会いに行くのだし、私も別に彼らになら嫌な気はしないので話すことにした。
「私たちは、双子の兄妹なの。イルミが兄で私が妹」
ええ!?と私がイルミの双子の妹だと明かした途端に彼らは驚きの声を上げた。それもそうだろう、私たちはどうやっても年が離れて見えるのだから。
「失礼だが、が彼と同じ年には見えないのだが…」
「そうだよね。それを話すと暗くなっちゃうけど良い?」
私が彼より何歳も若く見える理由を説明するとなると、どうしても話題が暗くなってしまうのでそう訊くと、彼らはが話して良いならと言ってくれた。
その返事にきょとんとする。普通なら過去の暗い話など面倒だから聞きたがらないと思っていたのだが、彼らは面倒ではないらしい。
面倒ではないの?と彼らに訊くと、今度は彼らがきょとんとして友達の話が面倒なわけがないと言った。
その言葉を頭で理解した瞬間、ぎゅっと心臓を掴まれたような感覚に襲われた。それは説明会直後に感じた気持ちと一緒な気がする。
たぶんこれは友情に対する憧れと嬉しさではないだろうか。キルアがあれだけ求めていたそれと同じものであるそれの。
彼らの言葉に感動して暫く言葉を発する事が出来なかったが、私はゆっくりと私たちの生い立ちを話し始めた。
私たちが双子の兄妹としてこの世に生を受け、片時も離れたことが無かったこと。7歳の仕事中に頭を打ち抜かれて5年間も植物状態で身体が成長しなかったこと。
それ以来イルミとはすれ違いが多くなり、まともに話も出来ずに10年間過ごしてきたこと。それら全てを話し終わる頃には3時間も経っていた。
それなのに、彼らは嫌な顔一つもせずにその話を聞いて真面目に捉えてくれた。そのことが酷く嬉しい。
「じゃあって本当は24歳なんだ。大人だなあ」
「そうかな?」
ゴンの少しずれた感想を聞いて、何だか気が楽になる。レオリオやクラピカが神妙な顔付きをしているぶん、ゴンがそういった事に囚われないで和やかに接してくれて丁度良かった。
容姿も精神年齢も19歳な私はどうやったって24歳のイルミと同じわけがなくて苦しいけれど、彼らといる間はそれが忘れられる。
「3人が私の友達で良かった」
偽りのない微笑でそう漏らせば、沈痛な面持ちをしていた2人も釣られて微笑した。
キルア、早くゴン達に会えると良いね。


2012/03/30

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