可愛くて仕方がない弟
どうか、今すぐにあなたの元気な顔を見せてください


世界の裏切り 第28話


『98番 !三次試験通過第三号!!所要時間7時間23分!!』
扉を開けると同時に三次試験を合格したことが知らされた。広い空間にはまだヒソカともう一人男がいるだけだ。
昨夜の事もあり、未だに許していないヒソカからは一番距離をとり腰掛ける。そうであるにも拘らずヒソカはニタリと楽しそうに口元を歪ませる。
もしかして先程の返り血の匂いがまだ身体に染みついているからかもしれない。幸い、用意周到なことに、血まみれになった洋服と同じ服を試験官が用意していたのでその服に着替えて血まみれの服は捨てさせてもらった。
そうであるにも拘わらず、彼は私の香りを察知したのだろうか。普通の人間であったら、今の私からはボディソープの香りしかしてこないと思うが、闇の世界に生きる者には、この染みついて離れない匂いを敏感に察知できるからだろう。私もその内の一人であるから、ほとほと嫌になる。
早くキルア達が無事に下りてきますように、と出口の部分をじっと見つめる。ヒソカは油断できないが、疲れを取り除くために仮眠をとることにした。


『残り1分です』
アナウンスの声が聞こえ、何度目か分からない睡眠からぱちりと目を開く。彼らはまだこの広間には来ていない。人の気配がする度に目を覚まして何度も確認してきたが、その度に期待が失望へと変わる。
まさか彼らに限って不合格はありえないと信じたいが、もうアナウンサーは秒読みを開始している。
はらはらと落ち着かない様子で立ち上がり、出口を一心不乱に見つめているとよく聞きなれている声がしてキルア達が現れた。
「キル…!それに皆も」
姉!!」
随分汚れているのねと多少からかいながらも、彼らが無事に下りてきてくれたことに安堵した。何度彼らじゃない受験生が扉をくぐるのを見て不安に思っていたか。
それを伝えれば4人ともどこか照れくさそうにお互いをちらちらと見やっている。
「俺たちゴンの名案のおかげで今ここにいるんだ。本当コイツはすごい奴だよ」
レオリオがゴンの成したことを教えてくれて、私はそうだったのかと頷く。あんな状況下でその二択を越える想像力があるなんて素直に凄いと思った。
彼らの武勇伝をもう少し聞いていたかったのだが、惜しくも四次試験の説明が始まり、辺りはしんと静寂に包まれる。
「このクジで決定するのは“狩る者”と“狩られる者”。タワーを脱出した順にクジを引いてもらおう」
1番、2番と呼ばれ3番の自分が呼ばれて前に出る。引いた番号は89だった。一体誰だか分からない番号を引いてしまったようだ。まあキルア達ではなくて良かったと思うが。
「自分の獲物となる受験生のナンバープレートは3点。自分自身のナンバープレートも3点。それ以外のナンバープレートは1点。ゼビル島での滞在期間中に6点集めること!」
試験官が説明を終わった瞬間に皆は自分のプレートを鞄やポケットの中にしまう。私も仕舞おうかと思ったが、そんなに変わることもないという結論に至り、プレートは胸につけておくことにした。
キルアとお互いのターゲットのナンバープレートを見せてみるが、互いに知っていない番号なので諦める。これはもう適当に3人を狩るしかないか、と諦めていると、乗っていた船がゼビル島に着いたようだった。
キルアとはプレートが回収できた後に、島で一番高い木の根元で落ち合うことにして、ゴン達とは別れることになった。
「皆、気を付けてね」
「おう、もな」
「またここで再会しよう」
「必ず受かろうね!」
「後でな、姉」
3番、と呼ばれる声がしたので4人と挨拶をして森の中へ向かう。私の前にはまだ2人しか森に入っていないので、とりあえず寝床や水源を確保するために軽く草地を走ることにした。
どの場所に何があるのかと高い木に登って眼下を見下ろしてみると、丁度良い条件を満たしている場所を5キロ離れた所で発見する。
常人なら確認できないだろうが、そこには木の実や湧き出る泉、寝床に出来そうな木もあるのが確認できたので、その場所へと移ることにした。
10分程でその場所に着いて見てみると、上から見下ろしていた風景より更に条件が良いことが判明した。
「ここなら大丈夫ね」
私の目の前には枝が太い大木が聳え立っている。あの程度の枝なら私の体重でも支えきれるだろうと憶測を立て、跳躍してその枝に座ってみた。
周りには私を隠すように葉が生い茂っているから、絶をしていれば普通の者なら気付かれずに安眠をとることが出来るだろう。
寝心地もそこまで悪くないので、今日から期日までこの場所を拠点に活動することを決めた。


2012/03/28

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