怒るよりも先に
やることがあると私は思うのだけれど


世界の裏切り 第24話


「うーん」
「捕ってきたは良いけれど…」
ヒントを借りるとは言っても、実際に捕れた魚は見た目が全く宜しくない。大体、形さえ分からないのだから皆目見当もつかない。
「とりあえず切ってみる?」
「俺もやりたーい」
俎板の上に置いた魚を捌くことにして、二人して包丁を握る。刃物の扱いには慣れているおかげか、簡単に三枚に下ろすことは出来たが、そこから先が続かない。
ゴン達が次々とメンチにスシとやらを賞味してもらおうと差し出すが、結果は散々である。
そんな中、1人の受験生がメンチに対して声を荒げた。どうやら彼は自分が作ったスシを彼女が認めなかったことに対して、声を荒げているようだったが、作り方をべらべらと喋っている事に気付いていない。
「あいつバッカだなー」
「こら、キル。私たちも持って行きましょう」
彼のおかげで作り方が分かった私たちは列に並ぼうとするけれど、そこには既に長蛇の列ができていた。その最後尾に並びながらも、きっと彼女はブハラよりも胃が小さいだろう事は目に見えており、私たちの順番が来る前に彼女はこう宣言した。
「悪!お腹いっぱいになっちった」

「二次試験の後半料理審査、合格者は0よ!!」
たぶん教会の人と電話をしているであろうメンチは自身の主張を曲げずにそう言い放つ。その様子を受験生が騒騒と目配せをする中、一人の恰幅の良い男が突然調理台を壊した。ドゴオオオンと大きな音を響かせ、メンチに向かって怒りをぶちまける。だが彼女はけろりとした様子で、内心実は酷く苛ついてるのは力量のある者なら分かっただろうが、その男に対して「また来年頑張ればー?」と返した。
その台詞で堪忍袋の緒が切れた男はメンチに拳を上げようとしたが、その前にブハラが張り手で男を会場の外まで叩き出した。
「賞金首ハンター?笑わせるわ!」
包丁を何本も回している様子をは見つめる。彼女も大変なものだ。女性というだけで、美食ハンターというだけで周りの者から見縊られる。
だが実際はそこらの人間よりも強い彼女が求めていることは、それなりに価値があるものなのだろう。食とは文化を表し、人々が生きていく上で必ず必要な事柄なのだから。
それを馬鹿にされたときたら黙ってはおけないだろう。だが、も遊びとして試験を受けに来たわけではないので、どうしたものかと考える。
「それにしても、合格者0はちと厳しすぎやせんか?」
彼女が思考に耽ろうとした時、上空から気配が落ちてきたと思えば、その老人はハンター協会の会長だったらしく、メンチが緊張した面持ちになる。
「どーなるんだろ」
「もう一度試験をやってくれれば良いけど」
キルアとが二人の様子を見守っていると、どうやらメンチは新しい試験には自らも試験を行う、実演という形をとるようだ。
「そうですね、それじゃあ…ゆで卵」
メンチのメニューの真意を理解したネテロはにやりと笑い、受験生を飛行船に乗せてマフタツ山まで連れて行くことを了承した。
ゴウンゴウンと音を立てて到着したそこは名前の通り二つに分かれた山で、川が遥か下の方で流れている。
「このクモワシの卵でゆで卵を作るのよ」
急に崖から飛び降りたメンチに対して驚いていた受験生の前に、彼女は容易に糸に絡まっている卵を取って崖をよじ登り顔を出す。
ぽかんと呆気にとられている受験生の中で、元気な声が場の者の鼓膜を揺らした。
「あー、良かった」
「こーゆーの待ってたんだよね」
はきはきとしたキルア達の声を聴きながら、はふふと笑う。確かに彼らにとってはこちらの方がとても分かりやすくて、やりやすい試験なのだろう。
そりゃーと崖に飛び込んでいく彼らに続いても飛び込む。崖から崖へと繋がっている糸に掴まり、クモワシの卵を1個とる。
崖を上がり用意されていた大きな鍋に卵を入れる。ほんの数分で出来上がったクモワシの卵を市販の卵と比べながら咀嚼すると味の違いは一目瞭然だった。
「美味しい…!」
「ほっぺた落ちるー!」
今までシェフの料理で舌が肥えていた達も、そのあまりの卵の濃厚な味に軽く目を開く。
先に怒りを露わにしていた男もゴンから貰ったクモワシのゆで卵を食べてみて、メンチの情熱が理解できたらしい。
崖に飛び込むことが出来なかった彼はまた来年試験を受けるそうだ。


第二次試験後半、合格者42名


2012/03/27

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