気難しいけど負けない
私は前に進むから


世界の裏切り 第23話


二次試験会場であるビスカ森林公園に着き、周りを見渡す。隣にいるキルアも私と同じように息を乱していないから、この持久走は大したことはなかったのだろう。
未だ視界に入ってこないゴン達を探しているのか、キルアは落ち着かないようにきょろきょろしている。
「大丈夫、あの子たちなら」
「べ、別にあいつらを探してたんじゃねーよ!」
安心させるように彼の白銀の髪を撫でれば、指摘されたことが気恥ずかしかったのか可愛く噛みついてくる。
突如ぞわりと背筋をかけあがる不快感に後ろを振り向くと、離れた所にヒソカが立っていた。彼の視線の先を見ると、そこにはゴン達がいる。
たった今到着したようである彼らは木に凭れかかっているレオリオを発見して近づいている所だった。
「キル、見て」
「え?あ、本当だ。姉が言ってた通りだ」
キルアにゴン達が無事に到着した様子を伝えると、彼らに会いたいのか私の手を引いて彼らに近づく
「よ!どんなマジック使ったんだ?」
「キルア!」
キルアは今まで心配していたことを億尾にも出さずにゴンに話しかける。また、素直じゃないんだからと微笑ましく二人を見ていると、レオリオの腫れた頬に気が付いた。
「どうしたの?この傷」
「いや〜、俺にも覚えがないんだ」
自分でも分かっていない様子のレオリオを心配そうに見ていると、横からクラピカがヒソカに殴られたのだと教えてくれた。
まさかあのヒソカに殴られる程度で済むなんて、とレオリオを驚きの目で見つめる。きっと彼もヒソカのお眼鏡に適ったのだろう。
ところで、着いた当初から気になっていたのだが、この猛獣の呻り声のような音はなんなのだろうと彼らと談話する。
試験は12時からと書いてあり、あと数分で始まる筈だ。そろそろ腹減ったーと隣で腹の虫を主張してくる愛弟にそうねと返していたら、正午になり扉が開いた。正面にはスタイルの良い女性と、巨漢がいた。
「どう?お腹はだいぶすいてきた?」
「聞いての通りもーぺこぺこだよ」
「そんな訳で、二次試験は料理よ!」
異色な二人組が放った言葉に周りの受験生も驚き、ざわめきを増す。さらに続く説明を聞きながら、どうしようかと思考をめぐらす。
今までゾルディック家ではシェフが食事を作っていた為に達にはあまり料理の経験が無いと言ってもいい。
その後、二人暮らしを始めてから初めて料理―と呼べるかわからないが―をした時は楽しかったが悲惨になった思い出がある。
そんな“料理”という試験を出されるとは夢にも思わなかった。
「俺のメニューは豚の丸焼き!」
料理、と呼べるのか分からない名前を提示して二次試験は開始した。
「豚の丸焼きならどうにかできそうね」
「さっさと豚見つけて作っちゃおうぜ」
ゴン達とは別れて森に入り、豚を探す。大きな気配を感じ少し入り組んだ所へ足を向けると、そこには巨体の豚が10頭程いた。
「キルは火を熾しておいて」
「おっけー」
キルアに火熾しを頼み、豚へ攻撃を仕掛ける。突進してくる巨大な鼻と牙をするりと避けて、その脳天目掛けて踵落としをお見舞いする。1頭がどしゃあと倒れたのを見て、本能的に危険を察知した豚たちは逃げようとするが、その中の1頭の頭目掛けてまた踵落としをした。合計2頭を倒して、火を熾し終わったキルアの元にそれらを置き、程よく焼いた。つもりだったが、結構焦げてしまった。
「うっわ、すっげえ焦げてる。」
「食べてくれるかしら」
「たぶん大丈夫だよ」
どうやら火加減を間違えたらしく―というか、加減する器具など無いのだから仕方がないと思えるが―焦げてしまった豚を抱えて試験官の元へ向かう。
渡された豚のある焼きを次々に平らげていく様子に、私を含めた受験生が何ともいえない表情をする。
一体どうやったらあの体積を、と隣で考えているクラピカに、考えても理解できないことはあると教えてあげたい。
「終了!!70名が通過!」
とりあえず、あの焦げた豚の丸焼きでも合格できたようだ。ほっと胸を撫で下ろしていると、ブハラよりも辛口でありそうなメンチが彼女のメニューを伝える。
「私のメニューはスシよ!!」
楽しげに細められた目を見ながら、スシとは何だろうと考える。種類豊富な食事をしてきたと思っているが、その名前は今まで一度も食べたことがない料理だ。
ふふんと多少受験者を小馬鹿にしたような態度でメンチがその“スシ”という料理の説明を始める。どうやらスシとは小さな島国―ジャポンの民族料理であるらしく、スシはスシでもニギリズシしか認めてくれないらしい。
この話を聞く限り、スシには幾つか種類があり、この場に置いてある調理器具を使わないと作れない代物のようだ。
「スシか…なーんか全然分かんないや」
「私も」
隣にいるキルアも分からないといった様子で拗ねたように唇を突き出している。試験の道のりが危ういといというのに、そんな時でも彼の様子が可愛く思える。
「魚ァ!?お前ここは森ん中だぜ!?」
本格的にどうしようかと悩んでいると、レオリオの大きな声が会場に響く。
彼の大きな声のせいで周りの受験生にどんな料理か知られてしまったが、私たちもそのヒントを借りることにした。


2012/03/27

inserted by FC2 system