心配で本当は気になるのに
隠してる君は意地っ張りだね


世界の裏切り 第22話


「二人とも、キルアが前に来た方が良いってー!!」
キルアが伝えたことを大きな声で後方にいるクラピカたちに叫ぶゴン。そんな緊張感の無い彼に、ふっと微笑する。
こんな緊張感溢れる場所で和やかでいられるなんて、中々彼は肝が据わっている。
キルアもその様子に「緊張感の無いやつ」と呆れて呟いていた。きっと彼には仲間を思う気持ちの方が緊張より強いのだろう。
ぬかるんだ地面を走っていると益々霧が濃くなってきた。前方の影を見失ったら、第二次試験会場まで辿り着けないに違いない。
念を使って気配を追えば辿り着けるだろうが、この場には念を使える者が少ない。かなりの数の受験者が命を落としていくのだろう。
そう考えると自分とは全く関わり合いが無いのに悲しくなった。きっと、今まで人の命を奪ってきたからだろうと溜め息を人知れず吐く。
ぎゃあああ、と断末魔の叫び声が周りから聞こえてくる中、私たちは黙々と走り続ける。
たぶんヒソカはこの霧に乗じて何人か殺すだろう。後ろの方から彼の殺気が漂ってくる。彼は早く殺したいとうずうずしているようだった。
その殺気は辺りに散漫させながらも私に向かっている。そのねっとりとして絡みついてくるそれに腕にぞわりと鳥肌が立つ。
このままだとレオリオやクラピカは巻き込まれてしまいそうだ。そう思った時、後方からレオリオの叫び声が聞こえる。
「いってー!!」
「ゴン!」
彼の叫び声が聞こえた途端、ゴンは彼らの元に向かうつもりなのか、逆方向に走り出した。
キルアが彼を呼び止めようと、彼の名前を呼ぶが、彼はそのまま走り去ってしまう。
未だゴンが走り去っていった方を見つめている彼の横顔はどことなく怒っているようにも見えた。
「キルア、行かなくて良かったの?」
彼の後を追わなかった私に、この台詞を言う資格はないだろうが、私はキルアに尋ねた。
これは言い訳にすぎないが、私はキルアが行くと言ったなら一緒に彼の後を追うつもりだ。
ヒソカの力には敵わないかもしれないが、逃がす程度は出来るだろう。
「良いよ、あんな奴」
けれどもキルアは拗ねたようにそう言った。本当は気になっているのに、それを隠そうとしている彼はまだ勇気が出ていないのだろう。
キルアが薄情だというのではなく―それなら私も一緒だ―、私たちの脳には小さな頃から、勝ち目の無い相手とは戦うなと刻み込まれている。
それが、ゴンの元に行きたいという思いを邪魔しているに違いない。耳に蛸が出来るほどに、小さな時から呪縛のように聞かされてきたその言葉。
ヒソカは、彼が立ち向かうにしては強大で残虐すぎた。その言葉が桎梏として私たちに絡み付いている限り、私達は身動きが取れない。
だが、私には彼の後を追わないだけの、根拠の無い自信があった。きっと彼らは戻ってくると、希望にも似たその思いが確かに胸の中にあるのだ。
「大丈夫、ゴン達はきっと戻ってくるよ」
ぽんぽんと彼の頭を撫でて前方を見据える。きっと彼らなら大丈夫だ。私が感じたことをきっとヒソカも感じる筈だから。
そう自分に言い聞かせるように、キルアに伝える。
「そうだよな!」
それを信じようと力強く頷いた彼と共に第二次試験会場を目指した。


2012/03/25

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