君に願う
どうか、ほしいものは諦めないで


世界の裏切り 第20話


キルアとゴンが前方で走っているのを見ながら、レオリオやクラピカと話す。段々と周りの者たちが辛そうに顔を歪め始めてきた。
どうやら、私は先のことでレオリオを誤解していたらしい。それは彼も同じだったらしく、蟠りが残らないようにお互いに謝罪した。
なるほど、私はキルアに対して過保護すぎるようだ。文句をつけられた事ぐらいでむっとしては、キルアも息苦しいに違いない。
移動しながら話してみれば存外、彼らは根が優しく純粋である事が分かった。
出会った時からわかっていたことだが、彼らからは血の香りなどしないから。私の手は血に染まって消えない香りがついているというのに。
彼らは私たちと違って真っ当に生きて来たのだろう。きっと人を殺めたことなど無い筈だ。
はどうしてハンターを目指しているんだ?」
ひたすら走り続けて一時間、隣にいるクラピカが私に訊ねてきた。もう反対にいるレオリオも苦しそうにしながら、返答を待っているように見える。
志望理由を聞かれたけれど、私にはそれといった理由などないのだ。ただ、キルアに害が及ばないように付き添いで来ているだけであって、私には―。
「もっと強くなりたいから」
気がついたら、自然と口からこぼれていた言葉たち。当初とは違った考えに、自分が驚いた。
だけど、そうだ…。今は見えない、遥か先にいる愛しい弟に想いを馳せる。キルアが安心して友達を作れるように、私がもっと強くなりたかった。
肉体的にも精神的にも、揺れてしまうことが無いように。安心してキルアが身を任せられるように。
イルミの事でいちいち動揺しないように。弱い自分が嫌にならないように。自分の思いに気づいてしまうときりがないけれど、どうやら私は強くなりたいらしかった。
「十分、強い…気がするぜ…っ」
「私もそう思うんだが。高みを目指しているのだな」
はあはあ、と息苦しそうにしながらも、レオリオが言葉を発する。彼の額には何筋もの汗が伝っているけれど、私は息さえ上げていなかった。
きっと、彼はそのことを指しているのだろう。けれど、私が本当になりたいのはそういう強さじゃないのだ。とても抽象的だけれど、心を強くしたかった。
でも、レオリオの気持ちは素直に受け取る。彼はとても優しい人間だ。苦しみながらも、私に一生懸命意思を伝えようとしてくれる。
言葉を出すのも大変だろうに、彼はそれでも私に対する考えを正直に述べてくれるのだ。私には、彼らの優しさは眩し過ぎた。
きっと彼らと同じようにゴンは純粋でまぶしくて、他人を思いやれる優しい子なのだろう。目を開ける事さえ憚られる程に、太陽のように輝いている存在。
それでもキルア…あなたなら、その光をつかめるから。彼らならあなたを受け止めてくれるから。
それを確定する根拠なんて無いけれど、彼らには何か信じたくなるものを持っていた。だから、キルア。努力する前に諦めたりはしないで。
遠くに、急な階段が見えた。


2011/02/26

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