きっとその全てが君のためになるだろう
勇気を出してその一歩を踏み出して


世界の裏切り 第18話


「キル、用意は?」
「ばっちし」
はコートを羽織ながら後ろを振り返る。今日はハンター試験当日であり、今出発しようとしている所なのだ。
キルアはその言葉に頷いて愛用のスケートボードだけを持った。はそれを見て扉を開け外に出る。突如吹いた風に銀髪がふわりと靡いた。
扉を閉めて試験場に行こうとキルアの手を取り歩く。
「難しいといいな」
「もう、そんな事を言って落ちたらどうするの?」
試験場へ行く間も他愛の無い冗談や話に興じる。もちろん、彼女の言葉も優秀なキルアを信じての言葉だった。
お互いそんな風に穏やかに笑いあっているうちに試験会場である定食屋に着く。
ウィーンと開いた途端、肉の焼ける香ばしい香りが鼻をくすぐった。横でキルアがお腹すいたというのを聞きながら、口を開く。
「ステーキ定食弱火でじっくり」
「あいよ」
そう店員に通された先はエレベーターなのかどんどんと下りていく。律儀にも出されたステーキを口に運びながらキルアと先程までの会話を再開させた。
暫くするとチーンと音が鳴り、エレベーターの扉が開く。
「あ、着いた」
「そうね」
外に出ると、まだ人数は少ないながらも視線が集まる。だが数秒も経たないうちにそれらは外された。
ふと、下から声がすると思い、視線の先を変えてみると豆のような人がナンバープレートを持ち立っている。
「ありがとう」
とお礼を言い、プレートを胸に着ける。番号は98だった。キルアを見ると99という番号だ。ゾロ目とは運が良い。9という所は気にかかるが。
どうか、彼に良い武運を。そう願った。
「お近づきのしるしだ」
考え事をしていると、小太りの中年男がキルアにジュースを渡しているのを見つける。何だか笑顔が胡散臭い。あのジュース、何か入っているのではないだろうか。
じっとその男―トンパというらしい―を見つめていると私の方にもジュースを差し出してきた。キルアの開けた缶から微かに下剤の香りがする。
「結構です。キル、あんまり飲むとトイレが早くなるわよ」
私たちに毒類が効かないとはいえ、弟に毒入りの飲み物を飲ませた事に怒りを覚え、軽く殺気を飛ばすとすごすごとその手を下げた。
まったく、このような子供に毒入りの物を飲ませるなんて性格が腐っている。きっと他にもトンパの被害にあっている者は多いのだろう。
「そうだな姉、じゃーね!トンパさん」
そうキルアが無邪気に笑って手をふった。試験が開始される時間を待っている間、キルアと他愛の無い談笑をして時間を過ごした。
こんな風に笑っているキルアを見たのは久しぶりだったから純粋に嬉しい。
もしこの試験の間に彼に良い友達が出来たら、もっと彼は光に近づけるだろう。私はもうとっくに闇に落ちているから這い上がることなんて出来ないけれど、彼なら出来る筈だった。
ジリリリリリリリリ…と不思議な時計が試験開始のベルを鳴らし受験生達に緊迫した空気が流れる。
「これより、ハンター試験を開始いたします」

さあ、地獄へのカウントダウンが開始された。


2011/02/10

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