目が覚めたら君がいて
カーテンを開けたら小鳥が鳴いていて
幸せな朝を噛みしめた


世界の裏切り 第17話


「キルア、おはよう」
「んー…おはよ、姉」
寝ぼけ眼なキルアの手を引いてリビングに促す。昨日は色々と買い物をしたおかげで疲れたが、食料など必要な物が揃っていた。
冷たい牛乳を飲んで頭が覚醒したのか、台所に立っていた私の元へキルアがやってくる。
丁度パンをトースターに入れようとしていた所で彼の手が止まった。
「どうしたの?」
「何分焼けばいいのかな?」
普段コックが食事を作ってくれている私たちはパンの焼き時間すら知らない。暫し沈黙が訪れた。
大体、昨日説明書を読んでそれだけで理解しろというのがおかしいのだ。はそう割り切る事にした。
「きっと何分でも大丈夫よ」
「そうだね」
そう二人で納得し、トースターにパンを二斤いれ四分の所に設定する。パンを焼いている間にサラダと目玉焼きを作ろうと、
サラダはキルアに頼んで冷蔵庫から卵を出し、フライパンの上に二つ落とした。


「こげちゃったね」
「なー」
結局、パンと目玉焼きは黒く焦げてしまい、サラダは形が疎らなレタスや胡瓜、トマトになった。
初めての料理にしては悲惨な結果だったが、二人で料理を作ったというごく普通の日常を味わえた事が堪らなく嬉しかった。
黒くなったパンにバターを塗りながら、二人で顔を合わせて笑う。は今度からは時間を二分にしよう、と決めた。
これからは時間があるのだし、キルアの為にもゆっくりとでも料理の腕を上げようと、心に決める。
姉、何かすごい楽しいな!」
「そうね」
キルアが焦げたパンを齧りながら見せた微笑みに、つられてもふふ、と笑った。
このような、ごく普通の家庭の食事も、自分たちには非日常的なものであり、家出をしなければこんな幸せは味わえなかっただろう。
本当のキルアの笑顔を守っていきたい、と未だはにかんでいるキルアの頭を優しく撫でる。
「?」
「キルアは笑顔でいてね」
最初はただイルミと離れたくてキルアを理由にしていたのかもしれない。
だけど今は胸の奥で新たに芽を出した感情、小さなキルアの幸せを願うという思いが胸を占めていた。
心までを血に染め、殺しや拷問に耐える生活ではなく、彼の為に苦痛のないごく普通の明るい家庭を築こう。
きっと私がこの子を幸せにしてみせる。


 2011/02/10

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