どうして君は分かってくれないの
君の前だけでは熱を持たない闇人形じゃないんだ


世界の裏切り 第16話


とキルアが家出した?」
長期の仕事から自宅に戻るとヒステリックに叫んでいる母に捕まる。
母の剣幕に、とても昔にも感じたような気持ちになり、ああこれがデジャヴってやつかと理解した。
「またがいなくなってしまったわ!もう二度とこんな気持ち味わいたくなかったのに!!」
「母さん、落ち着いて」
そして俺がそれを理解した後には怒りと悲しみの気持ちが心を支配する。
何もかもが煩わしくなり、未だ叫んでいる母を振り切り足早に自室へと戻った。
自分にしては珍しく、乱暴に扉を閉め、窓際の椅子に座り窓の外を眺めた。
外はまるで俺の心の中を表しているようにどんよりと暗い森だ。
何となく、彼女の様子が最近変だとは感じてはいたが、まさかこのような大胆な行動をするとは思わなかった。
女一人の兄弟だったからか、彼女は人一倍従順で、歳の離れた弟達に優しかった。
キキョウが外に出る事を禁止した時だって、少し悲しそうな顔をしただけで異論を唱える事はなかった。
それが、俺と親父がいない時を見計らって家出をするなんて、余程彼女は追い詰められていたのだろうか。
それともキルアが何かを言ったのかもしれない、いつだってあいつはキルアに甘かったから。
それでも、いくら彼女が追い詰められていたとしても許せない。俺だっての為に今まで我慢していたのに。
どうして君は分かってくれないんだろう。いつだっての事を一番に考えて行動していた自分が馬鹿みたいだ。
そんなに俺と一緒にいるのが嫌なら、あの時、君がこんなに傷付く前に殺しておいてあげれば良かった。
もうとっくに隣にがいない事に慣れてはいたけど、何だか息苦しかった。
渦巻く哀しみと苛々を抑えてミルキの元へ向かうべく、イルミは扉を開ける。
何が何でもとキルアを連れ戻す。君が俺の傍から―もうとっくの昔に心も体も離れてしまったけど―消えるなんて許さない。
俺の存在理由は君のためだけなんだから。


2010/12/27

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