見慣れない街、風景
全てがまたここから始まる


世界の裏切り 第15話


飛行船から降り立った街は、寒い中でも我が家と反して活気があり賑やかな街だった。
行く先々で珍しい店が目に入るが、今は新しい家を探す事に集中する。
家を購入するために先程銀行から引き出した充分すぎる札束は、黒のスーツケースにきちんとしまってある。
姉、これからどうするの?」
「まずは、二人の家を探そう」
手を繋いでいるキルアが私を見上げ問うた事に、幸せな気分で答えた。
この街の何処かに自分達が暮らす家があるのかと思うと、顔が緩みそうになる。
我が家程広くなくても、こじんまりとした家でもは良かった。
唯、普通の家庭がするような当たり前の事が、キルアと一緒に出来れば幸せだった。
「ここ、どうかな」
先程よりも静かになった歩道でキルアが指差したのは、小奇麗に塗装されているマンションだ。
壁には入居者募集との文字が書かれており、丁度良いと尋ねることにした。


「良かったね姉、今日から住めてさ」
「そうだね」
幸運な事に、前の入居者が残していった家具の一つのソファに腰掛けながら、彼の言葉に頷く。
必要最低限だけの物であるが、ソファのほかにもテーブルや椅子などもある。
外見だけでは分からなかったが、以外とこの家は広い。二人で暮らすなら丁度良い広さだろう。
キッチンや浴室も設置されており、自宅として暮らすには充分である。
先程交渉した管理者は「お客さんは非常にラッキーですね」とこの家の条件の良さを熱く語ったので、即日入居にするとサインをした。
マンションの代金を払う際、何故だか分からないが、管理者はスーツケースの中身を見て驚いていた。
まさか金額が足りなかったのかとひやりとしたが、その金額は超えていたので気にしないことにしておいた。
「今から、他の家具を買いにいこうか」
「そうだね」
この家にはまだ足りない物があるので―例えばトースターや俎板、包丁など―必要な荷物以外ここに置いて、買いに行くことにする。
家から出て扉を鍵で閉め、階段を下りた。その事に言い表せない幸福感を感じながら、キルアの手を引いていく。
先程とは違う方向に足を向けて歩いていく。隣ではキルアが落ちつきなさげに辺りを興味津々に眺めているのを見て、笑みがこぼれた。
姉!みっけた」
「そうね」
高が家具や生活に必要な物が詰まっているホームセンターなのに異様に彼は興奮しているのが、微笑ましい。
私も初めて自分で家具を選ぶ事に対して楽しみなのでそれについては何も言えなかった。
自動ドアがひとりでに開き、私たちを招きいれる。暖かい空気が中から流れ、冷えていた体が温まり自然と硬くなっていたのが解ける。
扉を開いたそこは未知の世界だった。


2010/12/27

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