生まれて初めての朝日を見た
太陽がこんなに輝いているなんて知らなくて
涙が出そうになった


世界の裏切り 第14話


はっはっ、と途切れ途切れに息を吐きながら、夜が明け始めた街並みを駆けていく。
もう家からは随分と離れた所まで来たが、姉の足は速度を緩めない。
飛行場まではあと少しの段階だが、緊張と疲労のせいかキルアを眠気が襲う。
隣を見ると、姉は全く息を乱していなく、軽やかに走り続けている。
そう見ているとまるで、自分と彼女の距離が大きいものであるかのように感じられた。
姉に追いつくためにはもっと努力を続けなくてはならない。
彼女の傍で、彼女の笑顔を守っていくには己の力は未熟すぎる。
今も自分の事を気遣ってくれていて、手を引っ張ってくれている彼女の優しさに甘えてしまいそうになる自分を叱咤した。
「ちょっと休憩しよっか」
オレが限界なのがお見通しだったのか、姉は速度を落とし歩き出す。
返事さえも出来ない自分を心配しているのか、彼女はしゃがんでオレと目を合わせた。
「大丈夫?たくさん走ったから疲れたよね」
顔から流れる汗をハンカチで拭き取ってくれた事に感謝しつつ、口を開いた。
「つ、疲れた……オレこんなに疲れたの初めて」
「そうだよね」
疲れ果てているオレをおぶさろうと背を向けた姉に、大人しく甘える事にした。
こんな細い腕の何所にそんな力があるのだろうと疑問に思ったが考えない事にする。
先程までは苦しくて下を向いていた顔を上げると、朝日が丁度現れる瞬間だった。
ゆっくりと昇ってくる朝日は感極まるもので、赤々と輝いている。
「わ……」
「綺麗ね…」
力強くそして何もかもを浄化するように太陽は昇り続ける。
燦々と降り注ぐ太陽の光が、自分の汚い部分を消し去ってくれたようで心が晴れやかな気持ちになった。


いつの間にか止まってしまっていた足を再び動かし、飛行場へ向かう。
目指す場所はどこでも良かったが、キルアがハンター試験を受けたいというのでそこから近いザバン市にしようと思った。
何故急に彼がハンター試験を受けたくなったのかは知らないが、取っておいて損にはならないだろう。
新しい家は向こうに着いてから探す事にし、今はこの幸福感を味わう。
二人で暮らし始める事に不安は感じないが、家事などが心配だ。
二人とも良家で育っている為か、そのような事は執事達が行っていた。
だが二人でやれば何でも楽しくなるだろう。料理だって、洗濯だって全てが。
「キルアは大きくなったら何をしたい?」
自分が本当にしたい事は一生出来ないだろうという思いから口を開いた。
自分が出来ない代わりに、彼のしたい事は何でも叶えてやりたい。
「んー…姉とずっと暮らしてたい」
はにかみながら、言われた言葉に目を見開く。
その言葉にどれほど救われたことか。私の選択は間違っていなかったようだと安心した。
手に入らないものなどいくらでもあるが、私の隣にはキルアがいてくれる。それだけで十分だった。
いつも彼は私を救ってくれる、と最近は緩みっぱなしの涙腺から涙が溢れ出し、止まらなかった。
「どうしたのっ?姉」
突然泣き出した姉に吃驚したのだろうキルアが背中越しに焦っているのが分かったが、止めることは出来なかった。
「ありがとう……っ、キルア…」
朝日は優しく私たちを照らしていた。


2010/9/13

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