大切で大好きなおれの光
綺麗で優しくって、いい香りがして
なんで泣いているの?


世界の裏切り 第12話


部屋に戻り電気をつけ、ベッドにゴロンと横になる。先程の姉が呟いたあの言葉、本気なのだろうか。
彼女はこの兄弟の中でも女一人のせいか、親や家族には従順である。
その姉がこの家から逃げようという反抗的な言葉を口にしたことにとても吃驚した。彼女は何に対して苦痛に思っているのだろうか。
今までは守ってもらってばかりだったから、オレも姉を守ってあげたい。
なんとなく、原因はイル兄かなと思うが確信はない。何しろ自分は姉の過去を知らないし、イル兄と関わっている彼女を見たことが無い。
関わっていないというか、イル兄が避けているようにも見えなくは無い。だがこれ以上考えてもあの二人の関係は分からないだろう。
「どうしよー」
この家を出て行けば自由になれる。今みたいに人を殺さずに友達もつくって遊んだりすることができるだろう。
お菓子を好きなだけ一緒に食べたり、ゲームをしたり、遊びに行ったり、したい事はたくさんある。
だが、出て行けばイル兄や親が許さないだろう。もしかしたら連れ戻されるかもしれない。
それでも、つかの間の幸福だったとしても、自由を味わってみたい。
きっと、姉がいるなら何でも出来る気がする。自分には出来得ない事でも彼女は可能にしてくれるだろう。
姉からの誘いの返事はイエスだった。そうと決めれば彼女の所に一秒でも早く行きたい。
少し考えさせて、といった時の姉は寂しげな顔で笑っていた。無理しなくて良いんだよと。

コンコンと軽く手の甲で扉をノックすると、中からどうぞと彼女の落ち着いた声が響く。・
姉、おれ―」
「まずは座ってからにしたら?」
先程決意した思いを伝えようとすると、姉は微笑みながら穏やかに制止した。
確かに扉はまだ閉めていた途中であったし、誰に聞かれるか分からないだろう。
それに彼女は落ち着いて話したかったのだろう、二人用のティーカップがシンプルな机の上に並べてあった。
「それで、決めたの?」
先程とは違い落ち着いた面持ちで姉はオレに聞く。だが、不安気に黒い瞳が揺らいだのを見過ごさなかった。
だから、安心させるようにと笑う。きっと姉と一緒なら不可能なんて事はないと。
だって、姉といると幸せな気持ちになる。オレ本当は友達なんて出来なくても良いんだ。姉さえ居てくれれば。
だから、大好きな姉のために、彼女を苦痛から遠ざける為にオレはこの家を出て行く。
「一緒に行こう、姉」
部屋には、彼女の小さな嗚咽だけが響いた。


2010/8/25

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