小さな私の天使
君が願うなら
この身をけずってでも
籠から解き放ってみせよう


世界の裏切り 第11話


姉!みーっけ」
キラキラと瞳を輝かせながら覗き込んでくるキルアに微笑みかける。
座り込んでいた木の根本の窪みから立ち上がり、キルアのことを抱き上げ太い枝に飛び乗った。
軽やかに枝に着地して腰をかけると、先程までは笑顔の彼の表情が曇る。
「どうしたの、キルア?」
そっと頬を支え持ち上げると、揺れる瞳とかちあった。
「おれ、今の生活いやだ」
周りで誰かが聞いているのではないかというように、辺りに気を配りながら紡ぎ出されたその言葉に目を見開く。
「…どうしてそう思うの?」
聴かずとも分かっていたが、あえて口にした。
キルアは若干十二歳という若さで家族の期待を背負って、ほぼ毎日が仕事か修行に勤しんでいる身だ。
この年齢なら、友達と遊びたい盛りであろうに、一切そのようなことは許してもらえない。
幾度か今より幼かった彼が寂しげに空を見上げていたのを見たことがあった。
その時は、心が痛みながらもこの家の者ならば一度は通る道だと、見て見ぬふりをしたが、今彼は助けを求めた。
「おれ、友達と遊んでみたい」
初めて聞いたキルアの本音は、消え入りそうなほど弱々しく、はそっと抱きしめる。
「私と一緒だね」
「えっ?」
キルアの耳元で囁いた言葉は、彼には理解しにくい事だったのかもしれない。
もう何年もまともに話していない双子の兄に思いを寄せる。心も体も違ってしまった今の状況から逃げ出したかった。
ろくに外にも出してもらえず、イルミと一緒にいる事も許されないこの家は苦痛でしかない。
きっと彼は私がいなくても元気にいつもの通りに朝がやってきて、食事をし仕事にいくのだろう。
そう思うと悲しくなって涙が零れた。キルアが肩越しに吃驚しているのが分かる。
「どうしたの?姉」
心配そうに聞いてくる彼が愛しくて、自分と同じ色の柔らかい癖毛を撫でてやる。
「逃げちゃおっか」
キルアはぽつりと呟いたその言葉に過剰に反応した。
まるで辺りに敵が潜んでいるのではないかと思うほど怯えている彼を宥めるように背中を撫でる。

君が怖いというのなら、この会話は無かった事にしよう。
だが君がそれを望むのなら、何もかもを敵にしてでも守ってみせる。
それほどまでに君の笑顔は愛しく、私の救世主であったのだ。
君の産声で私は目覚め、君が笑うからここで生きてこられた。
ちいさな私の天使、君が望むなら――

「キルア、逃げよう」


2010/8/25

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