大切な君
愛しくて、愛しくて
それなのに、触れることもできない


世界の裏切り 第9話


…」
「イルミ…私はどれくらい寝てたの…?」
変わり果てた自分の姿。あの頃から自分の時だけが止まってしまった様なこの状況に、頭がついていかない。
ただ分かるのは大事な彼が変わってしまったという事実。まったく一緒だったのに、二人の差は大きなものになってしまった。
私は成長せず痩せて、彼は背も高くなり筋肉もついている。その光景に熱く熱した刃物で心を刺されたような痛みに襲われた。
漸く後ろから追いかけてきたキキョウ達が追いつき、部屋の中に入ると妙な沈黙が流れた。
見慣れない二つの顔に疑問を抱くが、勢いよく抱きしめてきた母親によって口から出すタイミングを逃す。
!心配したのよ…っ。あなた五年も目が覚めないから、もう一生起きないんじゃないかと…!」
「母…様…」
先程自分が質問した答えを聞いて愕然とした。それと同時に、ああ…だからイルミは言いよどんだのだと察する。
きっと、何年寝ていたなんて分かってしまったら私が傷つくから、優しい彼は言うか言わないか悩んだのだろう。
「だから…こんなに痩せてしまったのね…」
それと、成長していない。その言葉は口から出す事はしなかったが、自分の状況を理解したことで涙が溢れてきた。
ぽたぽたと零れ落ちる涙を止める術を知りたかったが、黙ったままより強く抱きしめてくる母親によってそれは叶わなかった。
「…ううっ…」
とても遠くなってしまったイルミ。どうして私たちは引き裂かれなくてはいけなかったのだろう。
きっとあなたの心も見えなくなってしまったに違いない。見慣れていた筈の黒い瞳も、今は何を考えているかさえ分からない。
もう、イルミとは繋がっていないんだという思いがの胸の中で渦巻いて、また涙がこぼれる。
「……っ」
イルミは無意識のうちに拳を握り締めていた。今まさに泣いている彼女を抱きしめてやることが出来ない事に苛つく。
分かっていたことではないか。いつかが目を覚ました時、彼女が傷つくことは。
俺と何もかも違ってしまった自分に嫌悪することぐらい、気づいていた筈だった。
きっと彼女は俺と一緒にいる度に傷つくのだろう。隣にいたら、自分との差を感じ自己嫌悪の波にのまれるに相違ない。
それなら、彼女が俺といることで傷つくのなら、俺はもう君と関わることをやめよう。
必要最低限の時しか会わなければ、君はきっと傷つく回数が減るのだから。
俺さえ我慢すれば、きっといつの日か、あの頃のように一緒に手を繋いで君と歩くことが出来る日が来るのだろう。


2010/7/30

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