この世に生を授かった時から片時もはなれたことのない俺の半身
いったい俺を置いてどこへ行ってしまったの


世界の裏切り 第7話


?どうしてそんな事を聞くの!病院にいるに決まってるじゃない」
俺が彼女について尋ねると、母さんはヒステリック気味に叫んだ。
信じたくない気持ちと受け入れる気持ちが混ざって頭がグチャグチャになりそうで、泣きたくなる。
母さんは今までミスなどした事の無いが重症を負ったことに酷く狼狽しているようだった。
泣き叫びたいのはこっちなのに、と思いながらも冷静に母を観察している自分がいるのに気づく。
「いつ帰ってくるの?」
また喚かれたりしたら嫌だなと思いつつも、母さんに聞いてみる。
「そんなの、分からないわよ!」
予想に反せず彼女は叫び、泣き出した。レースがふんだんにあしらわれたハンカチを目頭にあて、こぼれてくる涙を拭う。
その様子を見ながらこれ以上聞くのはまずいと、気づかれないように部屋を後にした。
そして、先ほど執事が言っていた事は真実なのだと知って、心が軋んだ。
鼻の奥がつんとして涙が出てくるのかと思ったけど、なぜだか出てこなかった。
きっとがいないと俺は正常に働けないのだろう。今だって歩いている足が止まりそうなんだから。
ついにおぼつかなかった歩みが止まり、その場にへたり込んだ。異変を察知した執事たちが慌てて駆けて来るが何も言わず俯き続けた。
執事たちは何を聞いても応じないイルミの態度に不安を覚えながらも、具合が悪いのかもしれないとのことで自室のベッドに寝かしておこうと抱き上げた。
それでもまだ思考はまともに働かず、ぼんやりと客観的にいつもより高い視点から下を眺めた。
このまま死んじゃえばいいのにな、そうすればこんな気持ち知らずにいられるのに、と虚ろな瞳が宙をさまよう。
壊れ物を扱うかのように執事たちがベッドに横たわらせたのも気に留めないで、イルミはひたすらが気に入っていた兎のぬいぐるみを抱きしめ続けた。
いつもの傍にいたぬいぐるみからはほのかな甘い香りがただよっていて、まるで彼女が傍にいるような錯覚を齎してくれた。


「イルミ」
部屋に響いた声でびくり、と目が覚めた。どうやら自分はいつの間にか眠っていたらしい。
寝汗でべっとりとくっついた髪の毛が気持ち悪く、額を擦る。むくり、と起き上がり、ドアの方を見るとじいちゃんが立っていた。
「どうした、うなされておったぞ」
にこりともせずにゼノはそう言うと、近くにあった椅子をベッドの傍に引き寄せて座った。
確かに、記憶は曖昧だがが苦しがっている夢を見た気がする。何も出来ずにいた自分の無力さに腹が立つ。
無言で目を合わせないでいると、じいちゃんはまた話し出した。
がお前を庇って倒れたらしいな」
その言葉には何か棘が含まれているようで、知らずうちにギリと拳を握りしめる。
「お前なら避けれたはずだがのう」
そうだ、が飛び出してこなくても俺なら避けられていた。
それなのに、彼女は俺の前に立ちはだかって、敵から俺を守るように身をささげたんだ。
そんな事はする必要が無かったのに。いつでも彼女は自己犠牲を選んで、俺を優先させる。
「ま、そんなに心配せずとも大丈夫じゃろう。あやつもゾルディック家の一員なんだから」
「……うん」
じいちゃんの話を聞いたときは絶望を感じたけど、は生きていて同じ世界にいるのだから、また会えるという希望が見つかった気がした。

早く目を覚まして帰ってきて……


2010/7/22

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