どうして君はどんどん先に行こうとするの?
おれはずっと一緒にいたいのに
おねがいだから、おれを置いていかないで


世界の裏切り 第4話


「何やってたの?」
飛行船に戻る途中、むっつりとイルミは呟いた。明らかに怒が含まれている声音には何かしたっけ、と一生懸命思い出そうとする。
「シャルと話してたの」
ほんの僅かしか話す事は出来なかったが、二人は友達になった。生まれて初めての友達に彼女の心は温かい物で満たされていた。
「ふうん。で、あいつは何」
未だギスギスとした口調で彼は問いかける。問いかけるというよりは些か尋問に近い気もしなくない。
「友達」
迷いも無く述べられたその言葉に、イルミの機嫌が更に悪くなる。
は俺よりあいつの方が良いの?」
気付けばの手首を強く握り締めていた。ギリギリと骨が軋む程に掴んでいたと気付いて思わず手を放す。
彼女の細い腕が赤くなっているのを見て、自分の腕まで痛くなったような気がした。
「どうしたの?イルミ変だよ」
不安げに己を見る彼女に申し訳ない気持ちもありながらも、この訳の分からないイライラは止まらなかった。
「そんなの、イルミだよ…。決まってるじゃない」
先ほどイルミが振りほどいた手をがまた繋ぎなおし、呟く。
いくらシャルナークといて楽しかったといえど、あの少しの時間でイルミより勝るわけがない。
未だ彼の怒っている理由は分からないけれど、自分が何より大切にしているのは彼だと気付いて欲しい一心だった。
「……ふうん」
その言葉にイルミはざざ波立っていた自分の心が納まっていくのが確認できる。そして、どんなに自分がのその言葉を望んでいたのか分かった。
俺はただ、自分以外の誰かと仲良くなって欲しくなかっただけで、あの少年に嫉妬していたのだ。
その気持ちに気付いたら気付いたで癪に障るが、先の言葉で気が落ち着いているのか何とか我慢できる。
素直に謝る事が出来ない代わりに、ごめんという心を込めてその手をきゅっと優しく握り返した。
「あ」
分かった、とは彼の機嫌が悪かった理由が気付いた。先までのイルミの行動や言葉を整理してみると――
「やきもち?」
その言葉が脳裏によぎる。
なぜよりによって今気付いたんだとイルミは気分が下がる。謝っている気分になっているその時に気付かれるなんて。
「……」
スタスタスタ、と突然彼の歩くスピードが早くなったことに?マークを浮かべながらもは早く歩いた。
彼女は知る由も無いだろう。なぜ彼が無言で歩き続けるのか。
結局、彼の直りかけていた機嫌がまた悪くなったことに気付かないまま、飛行船が待ち構える場所についてしまった。


2010/7/22

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