あなたにほめてもらうために
あなたに認めてもらうために
私はあなたの娘にふさわしいですか


世界の裏切り 第2話


「イルミ、
カチャカチャとナイフとフォークを動かす音だけが響く中、威厳のある父さまの声が私たちに向けられた。
「何?」
隣にいるイルミが動かす手を止めて父さまを見る。彼に倣うように私も見つめた。
何を言われるのか分からなかったけど、その面持ちに緊張する。
「二日後、お前たちに初の仕事をしてもらう」
「まぁ」
その内容にキキョウは嬉しそうに声を上げ、ふふふと喜んでいる。
既に食事を始めているのに今日はご馳走ね、と言っているあたり相当嬉しいのだろう。
私もやっと仕事を出来るほどに成長したのだと、父さまに認めてもらい嬉しかった。
「やったね」
「うん」
イルミは相変わらず無表情だけど、きっとイルミだって嬉しいに決まっている。
だって口の端が少しだけ上がっているから。彼の小さな癖はきっと私にしか見つけられない、その事実が嬉しかった。
「資料をよく読んでおくように」
「「はい」」
渡された資料は私にはとても重く感じられた。初めての仕事の内容がこの中に書かれていると思うだけで、期待と不安から胸がきゅっと縮む。
ふと知らない単語が目に入り込む。何なのだろうと思い口を開けた。
「父さま、りゅうせいがいってどこ?」
その質問にシルバは少しだけ困ったような顔をして答える。
「流星街はな、この家からとても遠い所にある。少し厄介な連中もいるから俺が行こうかと思ったが、それより重要な仕事が入ったからお前たちに任せることにした」
その様子を興味深そうにイルミが見つめる。それもそうだろう今の言葉は、まるで自分たちを認め期待していると言っているようなものなのだから。
「良いか、決してターゲット以外の奴らとは関わるな。面倒くさくなるだけだ」
その言葉に素直にはいと頷くが、何が面倒くさくなるのかは分からなかった。
だが、きっと自分たちを心配しての言葉なのだと勝手に解釈しその話は終えた。


「うまくいくかな?」
帰りの廊下で不意にが呟く。その言葉には不安が見え隠れしており、繋いだ手をより一層強く握った。
「大丈夫だよ。オレだっているんだから」
そういう自分も初めての仕事に少し緊張していた。だけどが一緒にいるから大丈夫だと思う。
二人でならきっと大丈夫だという気持ちがイルミの中で輝いていた。
「うん」
少し不安が拭えたのか、伏せ目がちだった目を上げ、彼女は前を見据えた。
大丈夫、とイルミは頭の中で呟く。の白く細い肢体、ちいさな微笑み、穢れ無き純粋無垢なその心、その儚い存在を、今は未だ小さなこの手で守ってみせると。


2010/7/22

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