※夢主幼児化してます。若干のキャラ崩壊注意。


 おかあさーん、おとうさーん。眠っていた安室の耳に小さな女児のソプラノ音が聞こえた。夢と現実の境目にいた彼はその声に薄らと目を開ける。今の声は一体何だ。時計を見てみるとまだ早朝だった。疑問に思って扉の外に意識をやると、ぐすぐす泣いている声が徐々に近づいてくる。もぞりと上半身を起こして扉を見ていれば、恐る恐るといった体で安室の部屋の扉は開かれた。
「おかあさん?おとうさん?」
扉から現れたのは黒髪に飴色の瞳を持った小さな女の子。見た所3,4歳といった所か。しかし、驚いたのは彼女が身に着けていた服装だ。あの寝着はがいつも着ているもの。ずりずりと引きずられているぶかぶかのシャツから覗く白い肌とが着ていただろう下着が見えて、安室は頭を抱えた。
いや、絶対にありえない。ありえない筈だけど、彼女の顔は7歳児のを更に幼くさせた容姿で。
「――まさか、……?」
「おにいちゃん、どうしてのなまえしってるの?」
否定してほしいと思いながら女児に呼びかけてみれば、彼女は潤んだ目で安室を見て首を傾げた。その言葉に安室は悟った。何が起きたのか全く分からないけど、が小さくなってしまったらしい、と。
これは夢なのか。安室を「おにいちゃんだれ?」と純粋な瞳で見てくる彼女を抱き上げてベッドに腰掛ける。その際、廊下に小さなには大きすぎたショートパンツとパンツが廊下に落ちているのを見て「ああ…」と思わず声を上げてしまった。ということは、彼女は今パンツを着けていないことになるのか。安室は自分が犯罪者になった気がした。いや、公安のスパイとして犯罪じみたことはしていたか。とりあえず安室も冷静になる時間がほしかった。彼女のシャツのボタンを一番上までしっかりと止めてやれば、何とか犯罪臭はマシになった気がする。数秒ゲンドウポーズを取った彼だったが、長い息を吐き出してに向き直った。
「僕は安室透だよ」
「ふうん。おとうさんたちはどこにいるの?」
「お父さんたちは仕事に行っちゃったんだ。だから僕がの面倒を見るように頼まれたんだよ」
「そうなんだー。おじさんたちいまたいへんだからかなぁ」
「お父さんたちが帰ってくるまで一緒に待ってようね」
「うん」
きっと彼女の頭はまだ彼女の世界で両親と暮らしていた頃のものであるようだからこの状況を正直に述べても理解してくれるわけはないと判断して、一先ずの両親については嘘を吐いてしまった。それに勝手に憶測をつけて納得してくれた彼女にほっとすると同時に罪悪感が湧く。こんなに純粋な幼女を騙しているなんて。
安室が両親と関係がある人物だと分かって安心したのか、今度はから話しかけてきてくれた。
「あのねえ、ずっとおにいちゃんがほしかったの」
おかあさんたちにたのんでもこなかったけどがいいこにしてたからおとうさんたちがプレゼントしてくれたんだねと瞳をきらきらさせて安室を見上げる彼女に彼は笑顔でうっと言葉に詰まった。子供とは純粋で穢れが無いものだと分かっていたけれど間近でこんなことを言われると、どうしても自分が汚れまくっているように思えてしまう。普段コナンたちと会話していてもあまりそういった感情は湧かないけれど、相手がで更に彼らよりも幼いからだろうか、良心がグサグサと抉られた。
「ああ、今日から僕はのお兄ちゃんだよ」
「やったー!」
だが、その言葉は嬉しかった。自分がの兄か、悪くない。敬語ではない彼女は新鮮だし、小さな頃の彼女を見れるのも楽しい。どうしてが突然小さくなってしまったのか分からないが、もしかしたら異世界の人間にはこういうことが稀に起こるのかもしれないと安室は楽観視することにした。とりあえず、が元に戻るまでの間は彼女の幼少期を堪能しよう。


と考えて、早朝ということもあったのでもう一度寝付くことにした安室たちだったが、勿論小さなを一人で寝かせられる筈もなく一緒のベッドで寝た。安室は起きた際に彼女が元の姿に戻っていることを願っていたがやはり現実は甘くなかった。すやすやと眠っている小さながそこにはいる。夢じゃなかったか。
、朝ご飯にしようか」
「ん〜…おにいちゃんだっこぉ」
まだまだ寝足りない様子のを起こす。二度寝したこともあって時計の針は8を指していたから。ぐずる彼女の言う通りに抱き上げれば安室よりも少し高い体温で、柔らかくて簡単に壊れてしまいそうだった。
――ふかふかだ…!初めて小さな子どもを抱き上げた安室は感動した。
もしかしたら、この時はまだ悪魔の実を食べていなかったのだろうか。それなら怪我をしないようにきちんと見ておかないと。
「おにいちゃんおっぱいないのなんで?」
「――そりゃ男だから、っていたたたたたた」
突然ぺたぺたと自身の胸を触る彼女の発言にごふっと噴き出した。かたい!と不満そうには安室を見上げる。硬くてごめんね。安室は一切悪いことをしていないのに心の中で謝った。しかし、おとうさんはあったのにへんなの、と言う彼女にそれは君のお父さんが太っていたからじゃ…とは言うことが出来なかった所、柔らかくなかったことが気にくわなかったのか思い切り乳首を抓られた。めちゃくちゃ痛い。久しぶりにこんなに吃驚した。
安室の悲鳴にきゃっきゃと笑う彼女は、大人のの時と比べて遥かに激しい性格をしているらしかった。天使のような笑顔でとんでもないことをするんだから全く。
「良い子にしてないと怒るよ」
「ごめんなさぁい」
しかし少し怒った顔をすれば彼女はすぐにしゅんとした。素直でよろしい。こういう所は大人の彼女とあまり変わらないようだ。
朝食を作っている間に、安室は今後の予定を組み立てていた。とにかくまずはの服を揃えなくてはいけないし、子供服を買いに出かけるか、と。

 デパートで子供服を買ってに着せた所、漸くまともな身形になった。あのままだったら間違いなく安室は犯罪者として通報されていただろう。『名探偵毛利小五郎の弟子、幼女誘拐!?』そんな記事が世に広まることを考えるだけで寒気がする。そんなことになれば社会的に安室は消されるだろう。もれなく本職も失いそうだ。
今はが遊びに行きたいと言うので、知り合いがいないような公園にまで車で向かっている所だ。
リビングにいるだけで「これなにー?」を連発するに、そう言えば彼女の世界には同じような技術が無かったのだと思い出して一つ一つ名前と用途を教えたのはつい先ほどの所。きっと、外に出たら彼女はもっと目をキラキラさせるのだろう、と助手席で大人しく座っている筈のをちらりと見たらは勝手にシートベルトを外して立って窓の外を見ていた。それにぎょっと目を見開く。
!!こら、しっかり座ってないと駄目だろ!」
「そとみたーい!!」
「座って見て!」
思わず片手で彼女を座らせシートベルトを再度着ける。片手運転なんて危険極まりないことをしてしまったが、今のは明らかにのせいだ。たった一瞬のことなのに心臓がやけに五月蠅い。彼女に能力が備わっていない今、きちんと安全対策をしないと簡単には死んでしまうのに。どっと疲れた安室だったが、何も分かっていないように笑っているを見て癒された。いや、癒されちゃ駄目だろ。ったく、調子狂うな。それもこれも小さな時のが可愛いのがいけない。既に子どもの愛らしさに毒されかけていることに安室はまだ気付いていなかった。


 広々とした公園にやって来た安室とは柔らかいボールで遊んでいた。が追いかけやすいように優しく蹴ってやれば彼女はきゃあきゃあと笑いながらボールを追いかける。まるで子犬がボールとじゃれているような様子に安室はふっと笑った。たまにはこういう穏やかな時を過ごすのも悪くないのかもしれない。
「すーぱーえくせれんときーっく!」
「すごい呪文だな」
大きく足を振り上げてボールを蹴ったに安室は笑った。今の彼女の必殺技名が面白くて。本当に子どもが考えることは大人の常識を凌駕する。きっと意味など考えないで言っているのだろう。しかしボールは安室の方ではなく全く違う方向に飛んで行ってしまった。それに「あっ」と声を上げて慌てて追いかける。ボールはコロコロと転がってと同じくらいの男の子の前に行き、男の子がそれを拾い上げた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
小さな男の子と女の子が行う微笑ましい光景を眺めながら、安室はたちに近付いた。拾ってくれてありがとうね、とその男の子の頭を撫でた所、彼は嬉しそうににっこり笑った。だが、突然ドンとその男の子の肩を押したに安室は驚く。男の子がそれに驚いて「うわああん」と泣きだした様子に、近くでママ友と一緒に話していた母親らしき女性がやって来る。
「す、すみません、うちの子どもが…。、謝りなさい」
「やだ…」
何でいきなり彼に乱暴をしたのか全く理解出来ない安室はむすっとして今にも泣きだしそうなの顔を見ながらも、彼の母親に謝った。まだまだ小さなの心情は全く分からないけれど、彼女の機嫌が突然悪くなったのは明らか。ぷいとそっぽを向いた彼女に、どうしてだと困惑する。探偵の安室も流石にこんなに小さな子どもの扱いには長けていなかった。
「おにいちゃんはのだもん!」
「え、」
ぎゅうっと安室の脚にしがみ付いて離れないに、不覚にも安室の心臓はどきゅんと撃ち抜かれてしまった。目の前にが泣かせてしまった男の子とその母親がいるのに。ぐわし、と安室の心を揺さぶったその言葉が頭の中でエンドレスリピートで響く。
――おにいちゃんはのだもん。のだもん、の…。嗚呼。思わず感嘆詞が出てしまった。
「ごめんね、うちの竜太がお兄ちゃん横取りしちゃって」
「い、いえ、こちらこそすみません…怪我はありませんでしたか?」
「ええ、大丈夫ですよ。男の子だもんね」
の言葉によって、先程までは少しばかり困惑していた様子の母親は焼きもち焼いちゃったのね〜、と表情を柔らかくする。泣き止んだ息子に確認している彼女は、どうやら怒っていないようだった。安室はそんな彼女に謝りながらも、先程の自分の行動を思い出していた。あの時、この男の子の頭を撫でたことがの気に障ったのか。
――可愛いな、ちくしょう。を撫でくり回してやりたい気持ちを抑えつけて、安室は相手の親子と別れた。ああ、可愛い。親バカでも何でもないけれど、安室は生まれて初めて子どもがこんなにも可愛いと思った。それこそ、胸を掻き毟りたくなる程に。人々が子どもを欲しがる理由が分かる気がする。
「僕はだけのお兄ちゃんだよ」
「ほんとうに?」
安室の脚にしがみ付いて顔を見せてくれないの頭を撫でながら優しい声で語りかけたら彼女はむすっとしながらも顔を上げた。もちもちの頬を林檎のように真っ赤にした彼女に勿論と笑いかけるけれど内心では「食べてしまいたいくらい可愛い」と悶えている。ロリコンではないのだが、ここまで心を掴まれるのは相手がいつも一緒にいるだからか。
はその言葉を聞いて機嫌を直したらしい。「だけのおにいちゃんね!」とにこにこ笑って安室の股下を潜って走り回る。それだけならまだ良かった。
、おにいちゃんだいすき!」
「――っ!!!」
安室の脚に抱き着いて満面の笑みで見上げてくるの言葉に安室は思わず口元を手で覆った。隠さなければ確実ににやけていただろう。
――可愛すぎだろ、殺す気か。
段々自分でも自分が抑えつけられなくなってきた。幼女に抱き着かれて何かと葛藤している様子の安室は周りから見ればそれだけで不審者だっただろう。だけど持前の美貌との笑顔によって、それは仲の良い兄妹がじゃれているようにしか見られなかったらしい。
――嫁には絶対にやらない。
世の父親の気持ちが分かった瞬間だった。こんなにも可愛い娘を他の男に取られるなんて、どれだけの苦痛か。漸く娘に紹介された恋人を殴りたくなる父親の心情を理解できた安室はぎゅうっとを抱き上げて芝生がある所まで歩いて寝転がった。芝生は日光のおかげでぽかぽかと暖かい上に、胸の上にはの温もりがある。
「おっきくなったらおにいちゃんとけっこんする」
「そうだね、ぼくのお嫁さんにおいで」
「きゃー!」
の結婚する発言にとうとう理性を捨てて満面の笑みになった。それはきっと父親が言われて嬉しい言葉ベスト3に入る言葉だろう。感極まって、幼児だから別にかまわないだろうとの顔に数度キスをすれば彼女は嬉しそうに笑った。ああ、可愛い!!段々可愛すぎて腹が立ってくるレベルだ。勢い余って絞め殺してしまいそうである。
こんな状態をベルモットや蘭たちから見られたら確実に白けた視線か軽蔑の視線を貰いそうだったがここには彼女たちはいない。いたらこんなこと出来ないだろう。何しろ今の安室は幼女相手にメロメロになっている堕落した大人だから。
「え、安室さん……?何やってるんですか?」
「ちょ、ちょっと蘭、まずいって…!」
しかしそこに聞こえる2人の少女の声。それにぴしりと固まった。見上げる先には困惑した様子の蘭と見ちゃいけないものを見てしまったという表情をしている園子。それにすっと冷静になる自分を客観的に見つめる。
――安室はある事ないこと嘘を吐く覚悟を決めた。


 米花町から離れた公園まで行ったにもかかわらずそこで出くわした蘭と園子によって、いつになく精神的疲労を覚えた安室だったがどうにか彼女たちを誤魔化すことは出来たようだった。まさか、あんな所で会うとは思いもしなかった。運が無かったのだろう。
昨夜は遊び疲れて、当たり前のようにと一緒に寝てしまった彼だったが、「わああああ!!?」という悲鳴によってびくりと身体を震わせ目を覚ました。ぼんやりと霞んだ視界には身体の大きさが元に戻ったの姿が。だが、彼女が着ているのは昨夜安室が小さなに着せたパジャマ。破ける寸前までに伸びた小さなそれはほぼ下着と言っても過言ではなかった。それを見て悟る。ああ、これは。
「安室さんの変態!!!」
顔を真っ赤にした彼女にベッドから蹴り落とされた安室は、どしんと身体に衝撃が走ると同時に理不尽な神を呪った。
――やっぱり、こうなるか。
寝起きで対応出来なかった安室は床に転がった状態で「はぁ…」と溜息を吐いた。


月までこの思いを叫べば軽くなるだろうか。
2015/08/20
リクエスト内容:安室さんとギャグちっくな話。
おまけ
「おいしゃさんごっこしよー!がおいしゃさんね」
「良いよ。じゃあ僕が患者さんやるからね」
「へいらっしゃい!きょうはどこがいたいですか?」
「(ノリがおかしい…)ちょっと胃が痛いんです」
「じゃあしんさつしますからよこになってくださいねーはいみますよー」
「……先生、そこ心臓です…」
「…。“い”ってなんですか?」
「そこからか」

◇あとがき◇
匿名さん今回はリクエストありがとうございました!ギャグ…を目指したつもりだったのですが、ギャグというよりはほのぼのになってしまいました。(今度リベンジしたいです…!)どうにかこうにかで考えた結果が幼児化だったのですが、楽しんで頂けたでしょうか…?若干安室さんがキャラ崩壊してしまったのが申し訳ないです…!因みに、この後誤解は解けて夢主は安室さんに謝ったので一件落着しました。こんな作品ですが気に入っていただけたら幸いです。では、またお越しくださいませ。

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