※オペラ座の怪人のパロディ?英語の台詞は歌

 ことの始まりは、安室がにオペラ座の怪人のDVDを見せたことだった。
オペラ歌手を目指すうら若き乙女のクリスティーヌがあることをきっかけにコーラスガールから一躍主役を務めるようになり、少女時代に出会ったラウルという貴族階級の青年と身分違いの恋をする物語だ。しかし、その2人には障壁があった。オペラ座の地下に住む怪人が、彼女のことを深く愛しており彼女をラウルから引き離そうとするからだ。
はその怪人の魅力にどっぷり嵌ってしまったらしい。怪人とクリスティーヌが、ステージ上にかかる橋が下へゆっくり下がっていく中、共に歌いながら歩く様を見て彼女はうっとりとした様子で溜息を吐く。彼女が元々英語圏の人間だったということもあり、英語のミュージカルをすぐに好きになってしまったようだ。
「怪人素敵です……」
「確かに魅力的だけど、そんな危険な男に恋したら駄目だよ」
テレビに釘付けになっている彼女は勿論怪人役の男だけを見ていて、少し気分が良くない。分かっている、彼女が“怪人役の男”を見ているのではなく“物語の怪人”を見ていることくらい。だがあの歌唱力の高さに彼女が惹かれているのも分かる。何しろ怪人役を務める男はベテラン男優だから。それと同時に自分の発言のおかしさに彼女に知られぬように小さく笑った。危険な男、なんて自分が言えるような立場ではないのに。どの口がその言葉を言うのだ、と彼の正体を知る者なら言っただろう。
クリスティーヌになりたい。ぽつりとそう呟いた彼女に、安室はふとあることを思いついた。
――ああ、それならも喜ぶ筈だろう。
隣できょとんとしているを見て、安室はふふと意味深に笑った。


 序章でThe phantom of the operaが演奏される中、荘厳なステージ上に飾られた豪華なシャンデリアから火花が散る。本格的なセットに生のオーケストラ。流石鈴木財閥だ、こんなに豪華な劇場を一日貸し切って身近な者たちだけで劇をするなんて。クリスティーヌ役のは胸を高鳴らせながらドレスを翻しthink of meを歌う。ベテランソプラノ歌手のカルロッタ役のジョディが怪人の存在に怯え、今度のオペラには出ないとオペラ座を出ていってしまい、クリスティーヌに主役が回ってきたからだ。ちらり、と視線を特権階級用の席に向ければ、タキシードに身を包んだ沖矢がラウルとして「ああ、あれはクリスティーヌ。ブラヴァー」と手を叩きを見下ろしてくる。
凄い。本当にクリスティーヌになっているみたい。はそう思いながら歌い終り、舞台上の客に膝を曲げた。
劇中劇の“ハンニバル”が終り、は椅子に座りマダム・ジリから貰った手紙を眺める。もうそろそろ沖矢が来るだろう。本当は怪人とラウルのどちらを安室に演じてもらうか悩んだのだが、は怪人の方が好きだった為彼に怪人を頼んだのだ。少し、恋人役の沖矢と演じるのは緊張する。
「クリスティーヌ・ダーエ。君の赤いスカーフはどこだい?」
「…ラウル?ラウルなのね!」
幼少期にクリスティーヌが海に落としてしまったスカーフを、飛びこんで取り戻してくれた彼。見事にラウルを演じきっている沖矢には驚いた。沖矢さん演技も英語もすごい上手い。そんなラウルとの再会を果たし、はドキドキしてきた。次はとうとう怪人の出番なのだ。一輪の薔薇を渡した彼が、一緒に食事をしにいく為に車を呼びに行くと言っていなくなり、は耳をすませた。

「Insolent boy, the slave of fashion. Basking in your glory. Ignorant fool, this brave young suitor. Sharing in my triumph」
(僕の宝物に手を出す奴 無礼な若造め 愚か者め)
「Angel, I hear you Speak, I listen. Stay by my side, guide me」
(エンジェルの声が聞こえる 包んで私を 姿を現して 連れて行ってね)

どこからともなく響く安室の声。その声を聞き逃さないようにとは周囲を見渡す。ラウルへの怒りを表す彼の声音に素直な心臓は歪に跳ねる。演技だと分かっていても、こうも明け透けに感情を出してくれる彼に、単純なは嬉しくなってしまうのだ。ああ、クリスティーヌ最高。

「Angel of Music, hide no longer. Come to me, strange angel.」
(音楽の天使なの 素敵な方)
「I am your angel of music. Come to me angel of music.」
(ここだ エンジェル・オブ・ニュージック おいでエンジェル・オブ・ミュージック)

鏡に映る彼の姿に、歌いかける。突如曲調が怪しいものへと変わり、は胸を高鳴らせた。ああ、もうすぐ。
劇場の鏡の中から霧と共に姿を現した、髪の毛をオールバックにして顔の半分を隠す仮面を付けた怪人、否、安室。タキシードに黒のシルクハットをかぶった彼は黒の外套を揺らめかせる。その裏地の赤が風に煽られてちろちろと炎が爆ぜているように見えて、は彼に釘付けになった。だって、すごい気品ある色気が溢れている。逆光で彼の表情は見えないけれど、手を招く彼の手をそっと取って、鏡の中に入っていった。
「クリスティーヌ!」
車を呼びに行っていた沖矢が部屋に戻ってきて叫ぶ声に、は意識を向けながらも安室から目が離せなかった。ああ、やっぱり私はこの人のことしか考えられない。ほとんど暗闇になった舞台にThe phantom of the operaが流れ始めて、は期待に胸を膨らませた。ついに、一番憧れていたシーンをすることが出来る。
鏡の中から移動して、スモークが溢れ出したステージ上にかかる橋を歩く。ゆっくりと橋が下りていく中、の手を引く安室が仮面越しに見つめてくるその瞳の強さに胸が苦しくなって、目が逸らせない。その視線の熱さに、とけてしまいそうだと思った。

「In sleep he sang to me. In dreams he came. That voice which calls to me. And speaks my name. And do I dream again. For now I find. The Phantom of the opera is there. Inside my mind.」
(夢の中であなたは――この心に囁く 今姿も現れ――ザ・ファントム・オブジ・オペラ そう あなたね)

途中足を止めたに、ランプの光で先を照らしていた彼が戻ってきてやや乱暴に腕を引く。そんな強引さも普段の彼からは考えられないようなことで、は小さく息を飲んだ。ああ、さっきからときめきっぱなしだ。ずるい、安室さんってば沖矢さんと一緒で英語も演技も上手いなんて。地下へと続く道の先を見ながらも、何度もを振り返って彼女がいることを確認して腕を握り締める彼。

「Sing once again with me. Our strange duet. My power over you. Grows stronger yet. And though you turn from me. To glance behind. The Phantom of the opera is there. Inside your mind.」
(愛しい人よ 今宵も――君の心に潜みて 共に歌おう この歌 ザ・ファントム・オブジ・オペラ そう 僕だ)

を先へと導きながらも、薄暗い舞台の中での瞳を見つめる彼。愛しい人よ。ああ、その台詞にどれだけが胸を震わせているのか、彼は知っているのだろうか。場面が変わる為、一度舞台裏に引っ込んで用意されていた小舟の所まで歩くまでの間も、彼はの腕を離さない。マイクを付けている為台詞以外の言葉を発することはできないが、彼の手の温もりがずっとある。
舞台の小道具である小舟に乗る際に、無言で手を差し伸べた彼の表情は思わず赤面してしまう程優しいものだった。危ない、台詞が飛びそうだった。

「Those who have seen your face. Draw back in fear. I am the mask you wear.」(恐れはしないわ 私はその姿を)
「It’s me they hear」(僕の…)

海のように溢れるスモークの上を小舟が進んで行く。座り込んだの後ろに立った安室がオールで船を勧めていく。歌詞の通りだと思った。はどんな安室でも恐れはしないし、この好きという気持ちを無くしたりなんかしない。

『My(Your) spirit and my(your) voice. In one combined. The Phantom of the opera is there. Inside my(your) mind.』(今二人は溶け合い――ザ・ファントム・オブジ・オペラ ああ ひとつに)


 暗闇の中で橋を何度も往復する間に見たの姿に、一先ず登場が終った安室は舞台裏で口元を押さえた。暗闇でも分かる程瞳をとろりと熱に浮かされたように光らせ、白いドレスローブを翻しつつ安室が引く腕に付いて来た彼女。想う女にそんな表情をされて何も思わない程安室の心は冷めていない。そもそも彼女が怪人役を彼に頼んだことだけでも十分嬉しかったけれど。
だが今はがカルロッタ役のジョディと共に劇中劇を行なっている最中だ。それを安室は影からじっと眺めた。カルロッタの顔を立てる為に彼女の恋人役として男装したクリスティーヌを演じる彼女には台詞はない。カルロッタは嫌な女だが、ジョディはそれに嫌がらずノリノリで演じていることから彼女の懐の深さが窺える。そもそも英語の台詞を全て覚えて演技まで出来るという人物は少なかったので、見つけるのが大変だったというのは余談である。
「5番ボックスを開けておけと言った筈だ」
声だけの出演だが、安室はクリスティーヌではなくカルロッタを主役にしたことへの怒りを込めて話す。勿論演技だが。ジョディの声をカエルに変えてしまった小道具に感心しながらも、小間使いの男が首を吊るされ死んだことから場面が移り屋上へと逃げ出したを追う沖矢を見つめる。
彼女が一番好きなキャラクターが怪人とはいえ、彼女の恋人役は自分ではなく沖矢という男。これから彼女たちのデュエットを見なければいけないのかと思うと忌々しい。演技でも、に触れるのは僕だけで良い。
怪人に殺されると恐怖を露わにして逃げ出そうとする彼女に、沖矢は大丈夫だから帰ろうと説得を試みるけれど、彼女は見てしまったのだ、と彼に訴える。
――無残に焼けただれ、引き攣っている、仮面の下の顔を。
仮面。それは怪人を演じている安室も身に着けている。彼女に正体が知られないように、安室透という男の仮面を使って。は、僕の仮面の下を知ったらどうするだろうか。

「Then say you’ll share with me one love. One lifetime. Let me lead you from your solitude. Say you need me with you. Here beside you. Anywhere you go, let me go, too」
(助け出そう 全てを尽くして 君をその孤独から 言ってほしい 僕が要ると 共にどこまでも 二人で)

2人がデュエットを始めた様子を眺めながら、安室は2人を見下ろすことが出来る舞台装置の上に行く。沖矢が彼女に愛を囁いて――あまりにも自然な英語を話すから更に腹が立つ――彼女がそれに応えるようにじっと彼の瞳を見つめた。
――さっきまでは僕だけを見つめていたのに。なんて演技だから仕方ないのに。

「Say you’ll share with me one love. One lifetime. Say the world and I will follow you. Share each day with me. Each night, each morning. Say you love me.」
(言って 2人の愛の近いは決して変わらないと どんな時でも2人の誓いは――言ってほしいの)

愛、とか誓いだとかを立てたのは僕たちだろうに、彼女は残酷だ。否、守ると誓いは立てたが愛はまだ囁いていないか。大体その誓いは安室が自分の胸に誓ったものであり、彼女には直接伝えていない。
手を握り合って、至近距離で見つめ合う2人を観客席から見えないように無表情に見下ろしながらも、安室は内心舌打ちをしたくなった。

『Love me. That’s all I ask of you.』(今君を愛す)

2人で愛を確かめ合って、を抱き上げた沖矢が笑いながらくるりと一回転して彼女を抱きしめた。それだけでも相当むしゃくしゃしたが、その後の沖矢の行動に安室は目を見開いた。
物語上ではこのまま2人はキスをするのだが、舞台上では寸止めをして自然に手で隠すという方針だった。しかし、沖矢はそのまま止まらずに彼女の唇に彼の唇を重ねた、ように安室からは見えた。目を見開いているも、まさかそうなるとは想像もしていなかったのだろう。
――許さない。僕の目の前で。
満足気に笑っているように見える沖矢に、安室はギロリと鋭い瞳を向けた。だが、ここからが自分の出番なのだ。恋に敗れた怪人の悲しみと怒りを演じなくてはいけない。
――怒りなら、余る程あるけど。
安室はゆらりと立ち上がって、彼女たちが去った後の舞台を見下ろした。


 仮面舞踏会で怪人がクリスティーヌを主役にしろ、と新しいオペラを寄こしたことでは劇中劇の“ドン・ファンの勝利”で主役として出ていた。この劇中劇では役者を殺してその人物と成り代わった怪人がクリスティーヌの前に現れるのだが、は心臓をばくばくと五月蠅くさせていた。何と言っても、この劇の中で一番セクシーなシーンが入るから。
――顔に出さないように。声を出さないように。
共に歌って踊っていた人物たちがいなくなり安室の熱の籠った歌声だけが聞こえる中、がテーブルの上にある林檎をごしごしとドレスで拭いて齧ろうとした所、頭からすっぽりとマントを被って顔が見えなくなった安室が背後から現れた。
ふらりと長椅子から立ち上がり、歩きながら林檎を齧ろうとしたの手から林檎を取った彼が黄金の杯を差し出す。

「Past the point of no return. No backward glances. Our games of make believe. Are at an end.」
(もはや退けない 振り向くな 戯れはこれまでだ)

の顎を至近距離にいる彼の大きな手が掬い上げ、ぞくりと背中が慄いた。この場面ではは台詞がないため彼の手が宙を動くのに従ってそれをぼうっとした様子で目で追う。

「Past all thought of “if” or “when”. No use resisting. Abandon thought. And let the dream descend.」
(思い知るのだ 夢に身を任せ 悩みを捨てろ)

彼がの腕を掴んで迫ってくるのを上手く躱して、はくるくると回ってレースがふんだんにあしらわれたドレスの裾を翻しながら、テーブルの上に杯を置いて彼から離れる。ああ、だけど分かっている。離れても無駄だってことくらい。ばくばくと徐々に速くなりだした鼓動に、は落ち着けと言い聞かせる。
練習の時だって、彼は軽く触れる程度だった。本番でだって、彼なら上手くやってくれる筈だ。先程の沖矢と違って。

「What raging fire shall flood the soul. What rich desire unlocks its door. What sweet seduction lies before us.」(燃えるこの思いが 熱いこの願いが――2人をひとつにする)

長椅子に座ったの後ろに回り込んだ彼が、耳元で歌う。はそんな彼に挑発的な目をして対峙しなくてはいけないのに、それが出来なかった。心臓が五月蠅く喚いて彼に聞こえているのではないか、とさえ心配になる。

「Past the point of no return. The final threshold. Beyond the point.」(もはや退けない 行く手には――)

台詞に合わせての腰に手を這わせる彼の右手。ドレスの上からでもしっかり伝わる彼の手の動きに、はびくりと震えた。まって、練習の時と違う。それは徐々に腰から腕、肩へと上がっていき鎖骨、首へとかかる。ぞくぞくと得体の知れないものが背中を駆け上った。舞台上で彼に抗議できるわけなくて、は必死に表情を崩さないようにする。それでも、赤い顔は隠せなかったかもしれないが。観客として蘭たちが見ているのに、彼はいったいどういうつもりなのだろう。

「What warm unspoken secrets. Will we learn? Of no return.」(未知の愛の喜び もはや戻れない)

背中が彼の身体と密着した状態で、今度は左手がの肩から腕へと下りていき、の手を掴む。それに緊張が最高潮に高まった。震える息を吐きだして、大丈夫と言い聞かせる。動くのは私の手。彼の手は直に触れない。
もはや戻れない、と耳元で低い声で歌う彼の手がの手を誘導し、太腿から腰、胸へと上がっていく。直に触れているのは自分の手なのに、彼が誘導しているだけで肌がじくじくと熱を持った。
だが彼との密着するのもここまでで終わりだ。ばくばくと心臓が五月蠅く喚く中、はばっと立ち上がって彼から距離を取った。これからがクライマックスだ。


 クリスティーヌとラウルが結ばれ怪人が愛する彼女の幸せを願って手を引いたことで、無事に最後までは演じ切ることが出来た。途中何度も沖矢や安室に驚かされることはあったけれど。
どの人の演技も凄かったけれど、中でも安室の演技は一番素敵だった。好きな人が好きなキャラクターを演じるなんて、最高だと思う。
、おいで」
「安室さん?」
クライマックスの場面でウェディングドレスを着ていたは、この劇を観に来てくれた蘭たちと劇に出演していた者たちから離れる安室の後を追った。どこへ行くんですか?と彼に訊ねても、彼は舞台で着けていた仮面を外しながら振り返って、ただ微笑むだけ。
彼に連れてこられたのは安室の楽屋だった。皆一緒の部屋でも良いのに、きちんと一人一人部屋が分け与えられているなんて、やっぱり鈴木財閥の力は凄い。今日も何だか気合が入った様子で園子は数台のカメラセットを用意していたし。自分のあの演技を撮られてしまったのかと思うと恥ずかしい。一生残るではないか。
――まるでまだ舞台上にいるかのようにの手を恭しく引き、ソファへと誘導する安室には従った。
「え、わっ!安室さん!?」
、大丈夫だから動かないで」
どかりとソファに横向きに座った安室がの手を引いて、そのまま彼の身体の上に引き倒す。まるでが彼の膝を割って押し倒しているかのような状況に、は焦って離れようとするけれど彼はの腰を抱きしめて離さない。ドレスのレースが彼の黒いタキシードを覆って見えなくさせる。何が大丈夫なのか全く分からず一気に上昇した心拍数を持て余しながら少し離れた位置にある彼の顔を見つめる。顔が熱かった。だって、まるでこれでは花嫁と花婿のようで。
「あの男にキスされただろ」
「え、あ、違いますよ!」
の腰を掴んでいた彼の片手が離れて、するりと彼女の頬を、赤く熟れた唇を撫で上げる。それにびくりと肩を揺らしながらも、は違うと再度主張した。あの時、寸止めをする筈だった沖矢は観客席から見たらまるでキスをしているように見えるようにの口の端にキスをしたのだ。いや、キスをされたという点では変わりないだろうけど。すごいドキドキしちゃったけど。
は怪人の方が好きなのに、浮気じゃないか」
「浮っ?それ、ちが」
沖矢のあれはにとっては不可抗力だった。それに彼も舞台裏に引っ込んだ後に皆驚いているでしょうね、と悪戯っ子のように笑っていたからきっと他意はない。そう思って、彼に誤解されたくなくて彼を見つめ返せば、何故か押し黙る安室。ただ、黙ってじっとを見つめるその瞳の熱さに、は身動きが取れなくなった。瞳だけでは無くて、心臓まで射抜かれる。鼓動が先程よりも激しくなって、息苦しくなる。ゆっくりと身を起こした彼の顔が徐々に近づいてきて。目の前に迫る安室の瞳の中に、顔を真っ赤にした自分が映っていて、は震える息を小さく吐き出した。
目を閉じることが出来ずに見開いているの鼻に安室の鼻がすり、と当てられる。
「Close your eyes.」
安室の吐息を感じられる程すぐ近くにある彼の唇。小さく、The music of the nightの調べで囁いた彼には魔法がかけられたようにゆっくりと瞳を閉じる。いつの間にか溢れていた涙が一滴頬に伝ったその時。
「ちょっ、園子姉ちゃん押さ――」
「わあ!!?」
「いったぁー……」
コナンたちの焦ったような声と共にドタバタン、と大きな音が安室とだけの部屋に転がり込んできた。
ぎょっとして顔をそちらに向ければ、開いた扉から床に転がっているコナンと園子と蘭たち。の視線に気が付いた彼らは赤い顔を晒しながらも「あはは……」と苦笑いする。その後ろには「すみません、止めたのですが」と穏やかに笑う沖矢や、居心地悪そうに咳払いをして視線を彷徨わせる他の者たちが。
――見られてた。
瞬時にこの状況を理解したは一気に沸騰したのかと思う程顔を赤くして、「うわああああああん」と叫びながら安室の上から飛び降りて彼の楽屋から逃げ出した。


仮面の下の瞳
2015/07/09
参考:オペラ座の怪人25周年公演inロンドンDVD
オペラ座の怪人好きすぎてコラボしたかったんです。夢主の身体を練習時よりしっかり触ったのは沖矢に腹が立ったのと皆に自分のものだと見せつけるため。

おまけ
「ねぇ見てよ蘭!安室さんさん連れてっちゃったわよ!」
「あ、本当!うわ〜!安室さん大胆ねぇ!!」
「(昴さんがキスしたからだろ)」
「ちょっと見に行きましょうよ、蘭!」
「え!?(駄目だろ!)」
「コナンくんだって気になるんじゃないのー?」

『(ええ!いきなりソファに寝――!?)』
「(安室さん素敵…さん羨ましいなぁ)」
「(待て待て蘭とこのまま2人のラブシーンを!?)」
「(押せ!推すのよさん!)」

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