もうすぐハロウィーンですよね。さんは何かするんですか?と問うたのはの向かいの席でチョコレートパフェを食べている蘭。それに、はてと首を傾げる。はろうぃーんとはいったいどんなものなのだろうか、と。
の世界にはそういった行事など無かった為、初めてのことに些か困惑する。
「えっ!?さんハロウィーン知らないの!?ヨーロッパじゃ主流なのに」
「あっ、私の家そういうのあまり興味なくてやったことないんだ」
そんなに園子がぎょっとした顔を向けるものだから、彼女は「あはは」と笑って誤魔化そうとした。そんなに有名な行事なのか、と彼女の反応から察したはどういうことするの?と訊ねた。知識だけでも知っておいた方が今後誰かに話を聞いた時に困らなくて済みそうだ。
「お化けに仮装しておかしを貰うんですよ〜」
「それにはちゃんとした理由があるんです!」
楽しそうに説明をしてくれる彼女たちにへぇ〜と相槌を打つ。どうやら、ハロウィーンとは主に悪霊を追い払う為に自分たちがお化けの仮装をする行事らしい。トリックオアトリートという掛け声と共にいたずらかおかしを選択させる、と言う蘭に楽しそう!とは目を輝かせた。
「私達元々仮装パーティする予定だったからさんもどうですか?」
「それ良い!園子の家でメイクとかしてもらうつもりなんでやりましょうよ」
「良いの?すごい、ありがとう!」
彼女たちのお誘いを断るなんて選択肢はないため、は喜んで頷いた。彼女たちと一緒にこういう行事をすることができるなんて、幸せだ。当日は安室も一緒にどうぞと言われた彼女だったが、なぜかハロウィーンパーティをするということは内緒にしないといけないらしい。それに頷いたはハロウィーンの日が待ち遠しかった。


 どうやらと分身や安室以外にも、極親しい顔ぶれが鈴木家には呼ばれていたらしい。小五郎やコナン、阿笠や少年探偵団。どうやら真純も呼ばれていたらしいが、生憎予定が合わなくて不参加らしい。残念だ、とは思った。
鈴木家の大きな屋敷にも驚いたが、その顔ぶれにも驚いた。安室さんとコナンくんたち会っても大丈夫かな?一応彼は安室のことを“良い人”と認識していたらしいけれど、多少不安はある。
「随分賑やかだね。何をするんだい?」
「秘密、って園子ちゃんが言ってました」
好き勝手に話している彼らを見た安室がを見下ろす。ハロウィーンパーティですとは言えないはお口にチャックのジェスチャーをして何とか誤魔化した。彼のことだからそれなりに推理してこれがハロウィーンパーティの集まりであることを見抜いているかもしれないけれど。
「じゃあ皆それぞれの部屋に案内するから!こっち来て」
「はーい!」
園子が執事やメイドを何人も連れて来て現在いる部屋を出て行く。それに元気よく返事をした歩美たちの後ろからも外に向かった。それぞれ女性はメイドに、男性は執事に連れられて個室に移動する。
様は園子お嬢様がご用意したこちらをどうぞ」
「分かりました」
彼女の手から渡されたのは何やら制服のようなもの。警察のお姉さんたちが着ている服に似てるなぁなんて思いながら着替える。お化けに仮装すると言っていたのに、どうして制服なのかと疑問に思いつつも園子から渡されたのだから間違いではないのだろうと全て身に着けた。しかしネクタイなど普段したことがないおかげで上手く結べない上に何だかスカートが短いしスリットも深い。ジャケットはないらしくシャツをきちんとスカートの中に入れる。
――やだ、太腿丸見え…。
鏡の前で自分の恰好を確認しながら、帽子を頭の上に乗せ、偽物の拳銃を腰に下げて、手錠を手に持つ。カツカツ、といつも履く靴よりやや高いヒールで部屋を歩いて扉に向かった。外で待機しているメイドの女性に「これで良いんですか?」と恐る恐る訊けば「はい」と頷かれる。本当にこれで良いのかな。少し不安になってきたぞ。
段々恥ずかしくなってきてこの部屋から出られなくなってきた。しかし、廊下で園子の「キャー!!」と喜色ばんだ悲鳴にをそっと扉から外を見てみる。そこには王子様の恰好をした安室が立っていた。
――か、格好良い。
白と金を基調とした品の良い衣装を着こなしている彼。それに比べては何だか似合わないような恰好をしている自覚はあった。
「安室さんすごい似合ってるじゃないですかー!」
「ありがとうございます」
「もう…園子、真さんがいるのに!」
楽しそうに話している園子はスカートが短い小悪魔で、蘭は紫色の猫耳と尻尾を付けた格好。どうやら安室の仮装も園子が決めたらしい。出にくいな、と思ってそわそわしていれば、扉の隙間から彼と目が合ってびくりと飛びあがった。わ、わ、わ。勢いよく扉から離れたけれど、迷わず安室はやって来て。
、どうして隠れるの?」
「あ、あ…っ」
どこに隠れようと慌てるの手首を掴んで彼の方向を向かされる。にっこり笑った彼は王子様の衣装を着ているおかげでいつもより更にキラキラして見えた。ぽかん、と彼に見惚れていれば「ネクタイ曲がってる」と制服のネクタイを直してくれた。あ、うそ。急に近付いた彼との距離に心臓が過剰に震えた。きゅっと綺麗に結んでくれた彼にありがとうございます、と述べる。
「変、じゃないですか?」
「勿論。それで僕を捕まえるのかい?」
彼の評価が怖くて手錠を弄っていれば、彼は微笑んでそんなことないと言ってくれるからはほっとした。それと指を指されたのは彼女が持っている手錠。捕まえちゃいます、なんてはにかんで彼の左手にかしゃんと嵌めてみた。玩具だろうと思っていたは引っ張っても取れないそれに「えっ」と驚く。もしかしてこれ本物?
「あっさん似合ってるじゃないですかー!私の見立ては正しかったわ!」
「本当!ストイックな感じで格好良い!」
しかし、開きっぱなしだった扉から蘭と園子や入ってきてわあっと褒めてくれる。格好いいなんて普段言われたことがないは単純な思考で「本当に〜?」と嬉しくなった。えへへ、格好良いのか〜。警察官は市民を守る立派な仕事だ。そんな仕事の制服を着ているは見た目だけでも格好良いお姉さんたちに近づいたということか。
しかし嬉しくなったのも束の間、安室の片腕に嵌めてしまった手錠を思い出す。
「園子ちゃん、これ間違って付けちゃったの。鍵ない?」
「鍵なら――あ、どこに置いてたか忘れちゃいました!探してきてもらうんで暫くそのままでお願いします」
「すみません、ありがとうございます」
慌てて園子に訊ねてみるけれど、一瞬笑顔になった彼女は固まりその笑みのまま傍にいた執事の男性に声をかけた。うわ、お手間をおかけして申し訳ない。もう片方は繋がっていないとは言え、早く取ってもらう方が良いだろう。
さん、ちょっと良いですか?」
「え、うん」
にこにこと楽しそうな笑みで近づいてきた園子に、求められた手錠を渡す。そうすれば、何故かカチリという音と共にの右手首に手錠が嵌められた。えええ!驚いて彼女を見ればニヤニヤと笑っていて、漸く彼女が最初からそうするつもりだったのだと気が付く。だ、騙された。
「パーティが終るまでこれで楽しんでくださいねっ」
「ええ。勿論ですよ」
「えっ、えっ!?」
慌てふためくを置いて進められる会話に目を白黒させる。安室さんと片時も離れられない状態でパーティを?その事実に顔が赤くなる。物理的に運命共同体だね、なんて言う彼の言葉と共にハロウィーンパーティは幕を開けた。


 お姫様の恰好をしている歩美や帽子を目深に被った魔女っ娘の哀、そしてフランケンシュタインの元太に、ミイラ男の光彦、オオカミ男のコナン。子どもたちの可愛い姿に笑みを浮かべる一方で、大人組の小五郎と阿笠の恰好は、小五郎が吸血鬼で阿笠がマシュマロのような仮装であった。あれ、何だろうと首を傾げるに対してベイ〇ックスだよ、と安室が教えてくれた。
へぇ〜、初めて聞くお化けの名前だ。なんて勘違いをしているは子どもたちから「トリックオアトリート!」と囲まれて満面の笑みが浮かぶ。可愛い!分身はアリスという仮装をしているらしい。
「はーい、お菓子どうぞ」
「わあい!お菓子一杯〜!」
「たらふく食えるな!」
「一気に食べたらお腹を壊しますよ!」
きゃいきゃいと騒ぐ歩美たちに対してコナンと哀は落ち着いた様子。お菓子を渡してもシンプルにありがとうと言う彼らに彼ららしいなとは笑った。
「おーいコナン!料理も食おうぜ!」
「ああ。急がなくても無くなんねーから落ち着けよ…」
立食パーティ形式になっている広間では昼食時ということもあって既に豪華な料理が並んでいる。それに食いついた元太を宥めながらもお皿を取って料理を選び始めるコナンたち。安室はそれを見て「僕たちも食べようか」とテーブルの一角に向かう。しかし彼が色々皿の上に料理を乗せていくのを見ては気が付いた。彼女の利き手、つまり右手は塞がれている。これでは料理を食べられない。それにはっとしてどうしようと慌てるを、安室は笑った。
「こうすれば良いだろ?」
「んむ」
の口に入ったのはぷりぷりしたエビのサラダ。呆気にとられながらも口の中に入ったそれを咀嚼して飲み込んだは遅れて顔を赤くした。だって、いまのはどう見たって「あーん」というやつではないか。
もしかして料理を食べる度にあーんをしてもらわないといけないのかと驚いて、次いではっとして辺りを見渡せばそう遠くない所で園子と蘭が楽しそうにニヤニヤと笑ってたちのことを見ていた。
「あ、安室さん…蘭ちゃん達が見てるから…」
「ん?気にしなくて大丈夫だよ」
彼女たちのからかうような視線から逃れるように身体をもぞもぞと動かすけれど彼はそれに対してあまり深くは考えてくれないようで。ほら、あーんと差し出された料理が唇に押し付けられる。この状況を楽しんでいそうな彼にむっとして口は開けない彼女。しかし、たら…と唇に垂れそうになったソースに慌てて口を開いてそれを食べた。
「美味しい?」
「…美味しいです」
「ん、ホントだ。美味しい」
「!?」
が食べたことに満足して味を聞いてくる彼に、彼女は照れながらも素直に述べた。彼があーんなんてしてこなかったらこんな風に恥ずかしい思いをすることもなかったのに。そう思ったは彼が彼女に食べさせたフォークで同じ料理を食べる姿に目を見開いた。心臓が飛び跳ねてぼっと顔に火が付いたように熱くなる。
――こ、これって。
ちらりとこちらを見た彼の流し目に、ぺろり、と唇に付いたソースを赤い舌で舐めるその姿はとんでもなく色香を放っていて、慌てては彼から目を離した。
「直接してほしかった?」
耳元で、にしか聞こえないようにそっと囁かれたその声は普段より低くて、濃密な男の色を孕んでいて。それに思わずは腰を抜かした。かくん、と膝から崩れ落ちるの腕は彼とを繋ぐ手錠によって支えられていて、安室もやりすぎたかと言うようにしゃがみ込んで。
「そ、園子ちゃん……!!早く鍵ちょうだい…!」
をからかう恋人の猛襲に堪えきれずに彼女は顔を真っ赤にし涙目で園子の助けを求めた。もう!どうしてそんなにからかうの…!
――この後、少しして無事にたちは解放された。


02:手錠で鍵をかけて逃がさない
2015/09/26
◇おまけ◇
、トリックオアトリート」
にこりと笑ってに迫るのは、王子の姿をした安室だ。それに慌ててはいどうぞとお菓子を渡した彼女だったが、彼はそれに何故か「んー…」と真顔でを見つめる。僕はこっちよりいたずらの方が良いな、なんて言った彼に疑問を発する間もなく、彼にお菓子の包みを開けられ、それは彼女の口の中に放りこまれた。ころん、とした上で転がるのは品ある甘さのチョコ。それに目を丸くする彼女を見て安室は満足気に笑った。だがこの状況は何だか拙い気がする。だって、の手にはお菓子はもうないし、彼女が自分で食べてしまったから。
「あ、あの、安室さん…!?」
「いたずらだよ」
そして鍵を外された手錠での両腕を拘束して、その上ネクタイを解き、彼女の目を覆う安室。視界を奪われ自由にならない腕でそれを解こうとするけれど、「だめ」なんて遮られてしまう。その上、固い何かが唇に押し当てられて、戸惑う。ぺろりと舐めればそれはホワイトチョコだった。
美味しい。唇の熱でゆっくりと溶け始めたそれをぱくりと食べて、ぺろりと唇についたチョコも舐めとる。一体これのどこがいたずらなのか彼女は分からなかったが、視界が塞がれた状態でも彼が楽しそうなのは伝わってきたので良しとした。

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