沖縄旅行から帰って来たは、可愛い友人たちにお土産を渡すためにお茶会の約束をしていた。佐藤も一緒に、と誘ったのだが生憎彼女は仕事が入っている日だったので、今度お土産を渡すことにする。安室とのことも一緒に報告しようと思っていた彼女は、薬指で光る指輪を見てゴロゴロとソファの上で悶えた。因みに今は安室がポアロのバイトでいないため、こうして一人で悶えることが出来ているのだ。
しかし家を出る時間になってきたので、悶えるのはやめにして立ち上がる。だけどやはり指輪を見て緩む頬を抑えることは出来なさそうだ。
 デパートの中のカフェの前で待ち合わせをしていたはにこにこして待っている園子と蘭を見て笑顔で走り寄った。
「園子ちゃん、蘭ちゃん久しぶり!」
「こんにちは!沖縄行ってたんですよね」
「良いな〜!しかも安室さんも一緒なんでしょ」
会って早々テンション高く話しだす2人に、ちゃんと話すからまずはお店の中に入ろうと彼女たちを誘導することにした。
 カフェの中でも奥の席に通された3人は、とりあえず飲み物を頼むことにした。その注文をしてから、は2人に「はい、どうぞ」とお土産の袋を渡す。お土産には何が良いかなと思っただったが、やはりここは沖縄の特産物が良いだろう、と趣味まっしぐらで飲食物を中心にまとめてみたのだった。それを見て彼女たちは「こんなに沢山ありがとうございます!」と満面の笑みになる。お嬢様の園子も目を輝かせているので、彼女は良かったと一先ず安心した。
「そ、それでさっきの話は…」
ごくりと生唾を飲み込んだ蘭と園子の真剣な表情に、は「あ〜…」と声を上げた。話すことがたくさんありすぎて一体何から話しだせば良いのか分からなかった。それと少しばかり恥ずかしくて。
だけど彼女たちには今まで散々心配させてきたと思っているので、まずは分かりやすく結論から言うことにした。
「えと、安室さんと付き合うことになりました」
『キャ――――――――!!!』
報告と同時に彼女たちの口から歓喜の悲鳴が溢れる。頬を押さえて大興奮していた蘭と園子は、が「結婚を前提に」と付け足せばさらに悲鳴を上げた。奥の方の席であったため、他の客からの苦情が来なかったことが幸いである。
「今まで二人には色々心配かけたから…。本当にありがとう」
「良かった…!さんの恋が叶って…」
「本当に…!あんな良い男逃がしちゃダメですよ」
自然にお互いに手をぎゅっと握りあった3人。今までのことを思い出しているのか、瞳を潤ませている蘭と園子に、までも涙が溢れてきた。こんなに良い子たちと友達になれて本当に良かった。ぐすっとした蘭が人差し指で浮かんだ涙を拭うのに対して、ぐっと拳を握りしめ熱弁する園子。両者の言葉に大きくうんと頷いたはもう一度2人にありがとうと感謝した。
「で?で?どうやってプロポーズされたんですか?」
「えええ、言わなきゃだめ?」
「私も聞きたいです」
ぐいぐい身を乗り出してくる園子は満面の笑みで。それに大いに照れるだったが、どうやら蘭もその話を聞きたいようなので、は掻い摘んで話すことにした。ハートの岩が見える綺麗な海で、「今でも僕を好きでいてくれるなら、この手を取って」と指輪を嵌めてもらったということを。話していく中でその時のことを思い出して顔が熱くなる。あんな気障な台詞をあんなシチュエーションで使うなんて、本当にずるい人。
「…100人中100人が落ちますね」
「本当!何それ、気障すぎる…!」
話を聞き終わった2人も若干赤い顔でぷるぷる震えていた。どうやら安室の行動が憎いくらいの気障さで悶えていたらしい。私もそんなロマンチックな場所で告白されたいなぁなんてウットリした様子で呟く蘭に「何言ってんのよ。蘭、工藤くんにビッグベンの前でされたじゃない」と園子がジト目で見やる。
「ちょ、ちょっと!!」
「何それ!私も聞きたい」
「実はですね〜!」
途端に慌てだす蘭に、今度はが目を煌めかせた。その話は初めて聞くから。どういうこと、と身を乗り出せば園子がニヤリと笑ってそのことを話してくれる。も〜!と照れた様子で怒ってくる蘭にかわいいなぁと彼女は笑顔になった。何だかんだ新一君も蘭ちゃんに告白していたとは。
そう思いを馳せる彼女は、そういえばまだ一度もその“新一君”とやらに会っていないことに気が付いた。
――いつか蘭ちゃんが大好きな新一君に会ってみたいなぁ。
顔を赤くしながらもその時のことを話してくれる彼女を見ながら、は目をキラキラ輝かせた。


「へっくし!」
「あら、風邪?」
阿笠邸でコナンが突然くしゃみをして鼻を啜ったのに対して、哀は涼し気な目で彼を見た。その目は移さないでよという思いが込められているような気がして、彼は苦笑する。確かにくしゃみ程度では風邪ではないかもしれないからそこまで心配してくれないことは分かるが、それでも彼女の態度は冷たい。
――誰かが俺の噂をしてるんだろ…。
コナンは半目で窓の外を見やった。大方、蘭や園子当たりだろうと推測しながら。


お気に入りの思い出ひとつ
2016/02/24
タイトル:ジャベリン

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