01 奴隷生活スタート

わたしは至って普通の女子大生。そう、大切なことだからもう一度言っておく。わたしは普通の女子大生だ。
それがなぜこんなことに。徐々に近づいてくる青い海面に涙がこぼれそうになる。
そう、わたしは何故か今現在空から海に落ちていた。
「いやああああああああああああ!!!なんでどうしてこうなって!!!」
神様ぁぁああ!!!わたし何か悪いことしましたか!!??あ、色々あった。つまみ食いしたり、レポート期限切れて提出したり。でもそういうのって別に犯罪じゃないよねぇ!!?まだ可愛げがある悪いことでしょ!!
なんでこんな大悪党が体験しなくちゃいけないような事をわたしがしているわけ!!??神様の馬鹿ぁあああ!!
「ああああああやばいやばいやばい!!!やばいがゲシュタルト崩壊しそう!やばいって何だっけ?ってああああ!!そんなこと言ってる場合じゃない!」
このままいけばわたしは海面とこんにちはだ。周りには島なんて一つも見えない。こんなだだっ広い海で落ちたら…いやいやそもそもこのまま落ちたらわたし死ぬよね。こんなスピードで落ちてるんだもん、海面はコンクリートのように固い筈。
「ごめんなさい神様許してください!!これから態度を改めますからもう馬車馬のようにこき使ってくださっても文句なんて――」
バシャァァァアン!!!!海面に叩きつけられたもの凄い音と衝撃と共にわたしは意識を飛ばした。

「………う…、あ……、…?」
ぷかぷかと浮いている感覚がする。身体のあちこちが痛いけれど、ゆっくりと瞼を開けば自分の腕が目に入った。どうやら木の板に掴まっているらしい。良かった、生きてる。
あんな高い所から落ちてきたのに、生きているという事実を噛み締めていると何やら騒がしい声が耳に入ってきた。
「おい!あんな所に人間が漂ってるぞ!!」
「生きてるか確認しろ!!」
――助かった。どうやら、天はわたしを見捨てなかったらしい。
現れた救世主の声にわたしは内心歓喜したが、身体が思うように動かない為、そのままぐったりといたに身を預けていることしかできなかった。しかし、網のようなもので捕えられて船の上に助けられる。
どうもありがとうございます。そう言おうとして顔を上げたら、そこには強面の男たちがたくさん並んでいた。
「お、生きてんじゃねェか」
「中々良い顔してるし、売ったらそれなりの値段になるんじゃねェか?」
げらげらと下卑た笑い方をする男たちに、わたしの頬肉はひくりと引き攣った。え、何この人たち売る、ってわたしのこと?
そそそ、と視線を上げると髑髏が描かれた帆が目に入った。え、漁船とかだと思ってたんだけど、何これもしかして海賊?でも今時こんな中世の西洋みたいな恰好した人たちなんていないよね。
も、もしかしてこれは夢?いや、でもさっきものすごく痛かったし。それに気絶したんだから夢ならとっくに覚めている筈だ。
そんなことを考えていたらいつの間にかロープでぐるぐると身体を縛り上げられていたわたし。何これ!!わたしの馬鹿!!
「へっへっへ、お嬢ちゃん。俺たちがお前を拾ったんだからどうするかは俺たちが決めて良いよなァ」
「ひぃ!!!」
異臭を放つ身体を近づけてそう言う男。わたしは何も出来ずにその男の顔を見る事しかできない。ああああ、馬車馬のように働くとは言ったけれどこんな奴らの元で働かせるなんて神様!!!なんて酷い奴!!
よよよ、と身体が自由だったら泣き崩れる芝居を打つことも出来たが生憎そんな度胸も自由もない。
ああ、お願いです神様!正義のヒーローをわたしの元に!!この状況から助け出してくれるなら、その人の元で一生懸命働きますから!!!
そろそろ本気で泣きそう。そう思った時船首にいた船長らしき男が妙に慌てだした。
「おい!野郎ども!あっちから白ひげ海賊団がやってくるぞ!!急いで舵を回せ!!」
「早く逃げましょう!あ、あいつらとなんて無理っすよ!!」
何だ何だ白ひげ海賊団とは。そしてこの男たちの慌てよう。も、もしや!!白ひげ海賊団というものがわたしの本当の救世主!??!駄目駄目、それだったら逃げちゃ駄目じゃない!!私の所に来てもらわなくちゃいけないんだから!
どたばたと慌ただしさを増した甲板の上で、私は茫然と立ち尽くしていた。縄で縛られていなければこんな所逃げ出せるのに。徐々に近づいてくる大きな船。それはまるで白いくじらのようでわたしは思わずそれに見とれていた。
「な、なんで近づいてくるんだァアア!!俺たちは逸れた筈なのにィィ!!」
わあああと船長の男が慌てるが時すでに遅し。だんっ、だんっというこちらの甲板に飛び降りてくる足音が辺りに響く。おおお、ヒーローのお出ましか!!!
「悪いねい、こいつら血気盛んなもんで。お前らは良い餌だよい」
「よっしゃァア!!マルコ!俺に行かせてくれよ!」
パイナップルみたいな髪形をした男とテンガロンハットをかぶったそばかすの男が何やら話していると思ったらテンガロンハットの男が近くにいた男たちに突っ込んでいった。ええええ!!!って、今頃だけど彼上半身裸!!
「テメェら!!いくら相手が白ひげだろうと俺たちの維持を見せてやれェエエ!!」
先程まで焦っていた船長の男はこの戦闘が避けられないと知るや否や覚悟を決めて剣を抜く。それに伴って船員たちもあの二人に飛びかかろうとした。しかし、相手は彼らだけではなかったらしい。次々に現れる敵にこの船の男たちは大変苦戦を強いられているようだ。
わ、わたしはいったいどうすれば!!?ばったばったとこの船の海賊たちが襲われている中にぽつんと立っているのは酷く場違いな気がする。
「オラァア!俺には傷一つ付けられねェぜ!!」
「ぐあああ!!」
「あだぁっっ!!」
あのテンガロンハットの男が思い切り敵の男を蹴り飛ばした。それだけなら良かった。お見事と言えたかもしれないが、その男はよりにもよってわたしに向かって飛んできたのだ。その勢いのまま男は縄で縛られたわたしに激突して、わたしは軽く吹っ飛んで無様に甲板に転ぶことになった。
――い、痛い。あのソバカス男ぉぉ……!!!!って、いけない。仮にもわたしの救世主にそんな口を利いたら…またどこかで神様が耳を欹てているかもしれないもんね。
しかしこの状態では起き上がることもままならない。どうやら戦闘はあっという間に終わってしまったみたいだけれど、わたしはううと呻きながらなんとか身体をずらすことしかできなかった。
「マルコ隊長!あそこに縛られた女が!」
「ん?ああ、あの芋虫みたいなやつかよい」
「………」
芋虫……。この男、中々のドSと見た。捕虜にされていたか弱い乙女を見て芋虫とは…!
心優しい男の人がわたしのことを彼に知らせてくれたようだが、わたしの心は彼の言葉によって荒れた。よっ、という言葉と共に身を起こされて顔を上げると、そこには先程の加害者のソバカス男がにこにこしながら立っている。背、高!!
「お前大丈夫か?今縄解いてやるからな」
「あ、ありがとうございます」
この青年に悪い印象を抱いていたわたしは、こんな風ににこやかにわたしに救いの手を差し伸べてくれた彼に先程の印象を改めようと思った。しかし、なぜかぎりぎりと先よりも強くなる身体の束縛。
「あ、あの…何かきつくなってきたんですけど…」
「わりっ、こっちに回したらどうなるのかなって思ってよ」
――でもさっきより芋虫ぽくなって良いんじゃねェのか?
……………………………………………は?
こ、この男。にこやかに笑いながら毒を吐きやがる。お前もかよ!!そう叫びたくなるのをわたしは必死に抑えた。この場でそんなことを言ってしまったら先程倒された海賊よろしく殺されるかもしれない。
そんなわたしたちの様子を見てパイナップル男が隠しもせずにくつくつと笑っていた。けれど、ソバカス男はそれに気づいていない。ああ、そうか。こいつは天然Sだ。そしてあいつは分かっていてやっているS。どっちも性質悪いな。
「おい、マルコ。こいつ可哀想だから船に乗せてやろうぜ」
「あ?そんなのオヤジが駄目だって言うに決まってんだろい?」
わたしの腕を引き、あのパイナポー男の前に引きずっていく彼。おいおい、わたしの意志はそっちのけですか?でも丁度良い。わたしだってこの広い海を一人で旅するなんて出来ないからね。しかし、パイナップルは初対面の人間に失礼をかますドSにもかかわらず、意外にまともなことを言う。え、ちょっと負けないでねソバカス君!!
内心はらはらしながら眺めていると、わたしのことを心配するなというように彼が見下ろしてきた。
「俺一度芋虫飼ってみたかったんだよ!!良いだろ?マルコ!!」
「芋虫か…仕方ねェな。ちゃんと責任もって育てろよ」
って、芋虫ネタかよぉぉおおお!!!いつまで続けるつもりなんだ!!しかもそれで良いのかパイナップル!!!どこの小学生の子供を持った父親だよ!!!
「テメェ…誰がパイナップルだって…?」
「はっ…!!」
鋭い眼光を目の前のパイナップルから飛ばされて己の失態に気付く。ま、まさかわたしはいつの間にか考えていたことを口に出していたのか?
「上等だよい。テメェは今日から俺の召使いだ」
「え、そんな!いくらなんでもそ」
「良いな?」
「はいすみませんでした二度とそんな口は利きませんのでお許しください」

かくしてわたしの奴隷生活が幕を開けた。
今すぐそんな幕閉じろ!そしてわたしに人権を!!!

2013/04/03

inserted by FC2 system