――作戦その一。に自分を女として自覚させる。

「おはよう」
「おはようさん」
毎朝彼女とは朝食から始まる。食堂で鉢合わせるこの時にどれだけのことが出来るだろうか。
「貸せよい」
「え?」
とりあえず、トレーを持とうとした彼女の手からそれを取り上げて料理長に料理を乗せてもらう。料理長はそんな俺を見てぽかんと呆けていた。同じく後ろのも。だが彼の手がきびきび動いているのは流石だった。
人で混み合っているこの時間帯は、彼女の体系では前に進むのも困難である。だから俺はさり気無く彼女に道を作るためにずかずかと男達をかき分けて空いている席に朝食を置いて、彼女に座ることを促した。
「マルコ、どうしたの?」
「別にどうもしねえよい」
やはりは俺の行動を訝しんでいるらしく、まだ熱が下がっていないのかと心配してくる。だが俺はもう熱はないと主張して食事を始める。未だに俺のことを心配している様子の彼女も食事を始めて、いつもの他愛のない会話を俺に振ってきた。
次の島は夏島だから暑いだろうね、とかどうせだったらいっぱいアイスクリームを食べたいだとか。今までの俺だったらそうだねい程度の返事しかしなかったが、今日はそれに対して真剣に応えてみる。
「じゃあ着いたら食いに行くか?奢ってやるよい」
「え!!本当に?やったー」
妙な所でけち臭い彼女はいっぱい食べたいとか言っておきながら精々一つしか食べないんだろうな、と思いそう提案すると、彼女は予想以上に喜んだ。その様子に一瞬呆気にとられるが、すぐさまそれも元に戻し彼女の喜び具合に気分が良くなる。絶対約束だからね、と目をきらきらさせて指切り拳万までしだしたこいつをどうして愛しく思わないことがあるだろうか。
「ねえ、今日のマルコ機嫌が良いね」
「いつものことだよい」
目の前で元気よく朝食を食べるを見ているのはとても楽しい。以前だったらもっと落ち着いて食べろだとか思っていた筈なのに、美味しそうにぱくぱく食べる様子がこんなに気分の良いものとは思わなかった。彼女の食事風景を眺めながら俺も食事を進めていく。


「ねえ、ナタリー。次の島に着いたらマルコがアイス奢ってくれるって言ったんだ。ラッキー」
「あら、そうなの?よかったじゃない」
オヤジの元で働いているナースの一人に私はそう話しかけた。そうすれば彼女は一瞬何かを考えるように綺麗な眉を動かしたけど、すぐさまにっこりと私の言葉に返事をしてくれた。
実は私は隠していたけれど甘いものがとても好きなのだ。それこそ夜中にこっそりキッチンの冷蔵庫の中からデザートを盗み食いしてしまう程には。だが私がそれに見つかるようなヘマをする筈もなく、いつも誰が食ったんだと大騒ぎしているのをすぐ側で飄々と眺めているだけなのだ。今思うと私もエース並みに食い意地が張っているのかな。
「今日のマルコは嫌に機嫌が良かったな〜」
「じゃあ、とびっきりお洒落していかなきゃ」
お洒落?ぽかんと呆けている私に、ナタリーがそうよと頷く。何でお洒落?今でも十分お洒落じゃないだろうか。この黒のスーツにはけっこうお金をかけたのだ。ネクタイだって時計だって皮の手袋だって、全部このスーツに似合うようにコーディネイトしたのに。このカフスボタンなんて中々イケているし。
そう彼女に言えば、確かにそれはお洒落だけど次元が違うのよと返される。何だろう、ナタリーの言っていることが半分も理解できない。私は馬鹿じゃない筈なんだけど。
「とりあえず、当日は私たちに任せて」
「??ありがとう、ナタリー」
とりあえず、マルコがアイスを奢ってくれる日は、彼女たちがコーディネイトしてくれるらしい。センスの良い彼女たちに任せとけば変な服を着せられることも無いだろうし、安心して良いだろう。
「グララララ。、楽しんで来いよ」
「オヤジにもお土産買ってくるからね」
頭の上にぽんと大きくて温かい手が乗っかってわしゃわしゃと撫でられる。私はオヤジにそうされるのが大好きだからもっともっと、というように彼の脚にすり寄る。
そうすれば、「まったく、甘えん坊な娘だ」とまたオヤジが豪快に笑う声が聞こえた。そんなこと言って、甘やかすオヤジがいけないんだよ。
「皆どうしたの?」
「――何でもないわ!!」
カシャカシャとシャッターを切る音が聞こえてナースたちを見渡してみると、皆口元を押さえて真っ赤になっている。え、どうしたの皆。彼女たちの手には、明らかに医療に関係のないカメラが握られていて不思議そうにそれを見つめる。
だが、彼女たちはすぐにそれを豊かな胸の中に隠してしまって、見ることは叶わなくなった。
「何今のの笑顔!!!」
「これはもう即焼き増ししてアルバムに保存ね!!」
「ああもう、マルコ隊長なんかにこんな子あげるなんて嫌ぁああ」
こんな内容の会話が裏で話されていたなどと夢にも思わない彼女であった。


2013/01/13

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