46 memories

 ルフィとフランキーが1番ドッグで暴れている。そう伝えに来たタイルストンと共に、職長たちは皆外へ出ていった。そして、その時私はアリシアも外に向かわせた。ここから動けない私の代わりに、彼らの命が脅かされた時にはアリシアに守ってもらう為に。大抵のことなら、ルフィたちは乗り越えられると思う。だけど、万が一のことだってある。私が彼らを直接守れない代わりに、彼女に助けてもらいたかった。
あの時のアリシアはこの場にいる人間がどれほど信用できるのか考えているようだった。私の身に何か起きた時、彼らは私を助けられるのか、守れるのか。彼らにとっての一番がアイスバーグだと分かっていながらも、アリシアはカクたちが私の友人であることを考慮して、渋々ルフィたちのもとへ行ってくれることになった。
――私は、ここに残ることにしたけれど、未だにロビンがアイスバーグを撃ったということを信じていない。世界には色々な能力者がいるし、もしかしたら、ロビンに化けた者がアイスバーグを撃ったのではないかと思ったのだ。
だから、今は私に出来ることをしなければ。絶対に、真の暗殺者から彼を守る。
、今までのお前の旅話を聞かせてくれ」
「うん」
ちょいちょいと彼に手で招かれて、私は彼の隣に腰を下ろした。色々あって気が滅入っているのだろう、楽しい話が良いなと微笑した彼に、私は今までの航海を思い出す。
――ある時、新しい仲間になったエースのこと。彼は船の中で一番私と年が近くて仲良かったこと。そんな彼といっぱい遊んで、時にはいたずらをして怒られたり、時には喧嘩して仲直りしたことや、私が落ち込んでいる時に叱咤してくれたこと。そして、不安を抱えて家出をしたものの、全部私の思い込みが激しかっただけで、皆は私のことを大事な家族だと思っていてくれたこと。また、アイスバーグが見たこともないような特徴をした島に上陸して探検したことなど。思い返せばたくさんある旅の思い出を彼に話した。
が家出するなんてな」
そんな時期もあったのか。まるで、久しぶりに会った親戚のおじさんのように笑った彼に、私も笑い返す。そう、あの頃は色々あった。だけどここまでやって来れたのは、家族たちが私を支えてくれたからだ。大事な家族…パパ、マルコ、サッチ。それだけじゃない、皆が私を愛してくれているから、私はここまで大きくなることができた。
そして、私がルフィたちと出会った経路を話そうとした時だった。彼らを知ってもらうことで、もしかしたら彼の認識を変えられるかもしれないと思っていた矢先に、バリィインとガラスが砕け散るような音が屋敷の中に響く。それに、カリファと視線を合わせた。彼女は私に頷いて、少し外を見てきますと静かに部屋を出ていく。
「大丈夫、アイスバーグさんは私が守るから」
「ンマー、あんなに小さかった女の子に守られるなんてなァ…」
側に置いていた鬼切安綱を手に取り、扉を見つめる私の頭を彼がくしゃくしゃと撫でる。その手の大きさと撫で方が、どことなくマルコを彷彿とさせて、私はつい彼に甘えたくなってしまった。
そんな気を引き締めると、カリファが何か情報を掴んだのか室内に戻ってくる。どうやら、ルフィがこの屋敷に侵入したらしい。無茶をする子だと思っていたけれど、まさかこんな厳重な警備体制をされている屋敷にやって来るとは。全く、驚いた。
アリシアからの連絡がないから上手く逃げおおせたのだろうと思っていたのに。しかし、こうまでして彼がやって来るということは、やはり彼らは犯人ではないに違いない。後ろめたいことがあったら、普通こんな風に堂々と敵陣にやってくる筈がない。
「カリファ、頼みがある……」
彼女を呼んで次に告げた言葉に、私は良いの…?と彼に訊ねる。ルフィは彼にとっては容疑者であるロビンの仲間だ。私は、彼がここに来てくれることで真相が分かると思ったが、彼にとってはいったい何のメリットがあるというのだろう。
私も出ていた方が良いだろうか、と考え席を立とうとするが、彼はそのままで良いと言って私を座らせた。その直後、カリファに導かれて部屋に入ってくるルフィ。
!?お前、どうしてここに…」
「ルフィ、私も聞きたいことがあるけど今はアイスバーグさんの話を聞いて」
やはり私がここにいることに驚きを隠せない様子の彼に、私のことは一先ず置いといてと宥める。まだ、息が整っていなかった彼は私からアイスバーグに目を向けた。彼らの話を黙って聞いていると、どうやらルフィもロビンがアイスバーグを襲ったことを知らなかったようだった。
やはり、ルフィたちは犯人ではない。この子は、簡単に嘘が吐けるような子では無い筈だ。確か、エースの話でも、昔あまりにも彼が嘘を吐くのが下手だったせいで痛い目にあったと聞いている。だから、今回のことについてルフィたちは関わっていない。もし関わっているとしても、それは多分ロビンの単独行動だろう。
お前をここに招いたのは一つ頼みがあるからだ。ガチャリと懐から取り出した銃をルフィに向ける彼。ルフィがゴム人間だから銃が効かないと分かっていても、嫌な感覚だった。
「今からもう一度、ニコ・ロビンに会わせろ」
「……そりゃムリだ。ロビンの居場所が分からねェ…」
アイスバーグは鋭い瞳を彼に向けた。彼の返答を聞いた瞬間に引き金を引くアイスバーグ。思わず、目を瞑った。好きな人が好きな子に銃を撃つなんて場面を見たくなかった。
ドォン!と部屋に銃声が響く。ぱっと目を開けて立ち上がれば、そこにルフィの姿はなかった。銃弾が床を抉り煙を放っているそこに、慌てたようにガレーラの男たちがやって来る。
「アイスバーグさん!!」
バタン!!と大きな音を立ててやって来た彼らは、アイスバーグが無事な様子を見て一先ず安心したようだった。しかし、この場に流れる空気は重い。私は風に煽られているカーテンから顔を覗かせて、窓の外を眺めた。
――ルフィ……。
「真相に近付けるかとくだらない希望をかけた……」
彼が放った言葉の意味を、私は知らない。

 アイスバーグの屋敷にあの馬鹿な子供が侵入している間に、私は手元にあった紙とペンで様が今どのような状態にあるのかを、あたかも彼女自身が書いているかのように手紙の形式を取って綴った。本来ならこんなことをしなくても、彼らを見守っているだけで私にしてみれば完璧だが、様がアイスバーグと一緒にいることで彼らが彼女に対して良からぬ思いを抱くのは我慢がならなかったからだ。
ザッと屋根の上で音がして彼が帰ってきたことを察知した。猫の姿になってぴょんと屋根の上に飛びあがる。
「にゃあん」
彼らに向かって一鳴きして、こちらに気付かせる。麦わらは「ん?」と首を傾げただけだったが、航海士は私が分かったようだった。アリシアじゃない、どうしたの。そう言いかけた彼女は、私が口に咥えている紙に気が付いてそれに手を伸ばす。
これ、もしかしてから…?そう訊ねる彼女にそうだと一鳴きする。
「なぁ、何だって?アイスのおっさんに撃たれちまって結局あいつの話聞けなかったんだよ」
「………なるほど、分かったわ。どうやら私たちのコレに巻き込まれたみたいね…」
忙しなく数行に渡る字を目で追う彼女は、様の現状を理解したらしく頷く。そして、あまり字を読むのが好きではない麦わらのために、私が書いた手紙を分かりやすく砕いて説明した。それに、ふぅんそうかと頷く彼。どうやらおつむが少し弱い彼にもこの状況が分かってもらえたようで、一先ず安心した。これで理解しなかったら腹が立って彼の顔をこの尖った爪で引っ掻いていただろう。
「手紙に書いてある通り、暫くアリシアを預かりましょう」
「ああ」
彼女はアイスバーグの屋敷を見て、はぁ…と大きく溜息を吐いた。がいたらどうしたら良いか訊けたかもしれないのに、仕方ないわねと眉を寄せる。そんな彼女に、麦わらは行くかと腰を上げた。彼の眼差しはもう、どこか先を見据えるもので、私はフンと鼻を鳴らした。


2015/03/19
夜空の一等星が開幕の合図

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