42 あらゆる色が混ざる結末は。

 突然現れたアイスバーグに不思議な顔をするルフィたち。そんな彼らを置いて話を進めるアイスバーグとカリファは、ぱらぱらと書類を見て彼らの素性を明らかにした。ウソップはそんな彼女の情報網に驚いて、若干顔を青くさせている。
「現在7人組の麦わらの一味です。そして、LILYの異名を持った…」
しかし彼らの素性だけではなく、私の異名まで読み上げた彼女に心なしか照れる。何だか、昔を知られている人たちに手配書を見られているのかと思うと、恥ずかしいのと同時に少しばかり複雑だ。
「久しぶりだな、
「本当に、まさか来てくれるなんて」
にっこりと笑って、少し大きくなったんじゃないかと私の様子を眺めてくる二人に、照れながらも覚えててくれてありがとうと言う。彼らはそれを聞いてまた笑った。
「ンマー、よく来たな。俺はこの都市のボス、アイスバーグ」
そして私からルフィたちに視線を移した彼は初対面の彼らのために自己紹介をし始めて、胸元に大人しくじっとしている鼠についてもティラノサウルスと命名した。その容姿と真逆である名前におかしくなるも、彼に言われる以前に餌とカゴを手配していたカリファに流石だと目を丸くした。あの頃から彼女は彼のもとで優秀な秘書として働いていたが、秘書としての能力もこの5年間で大幅にレベルアップしたようだ。そして、そんな和やかな空気から一転し、すらすらと今後のアイスバーグの予定を並べ立てるカリファに、彼は嫌だと一蹴する。その彼の様子も全くあの頃から何一つ変わっていない。相変わらず我が侭な人で、ウソップが良いのかそれで!!と突っ込んでいた。そんな彼に、アイスバーグはこんなことも出来る権力者だと能天気に返す。
「これ、あのばあさんの言ってたアレじゃねェか?」
「ええ、そのアレよ」
ところで、漸く彼らは目の前にいる人物がココロの言っていたアイスバーグだと気付いたようで、彼を指さしてうんうんと頷いている。しかし、その瞬間カリファから無礼者!!と素早い回し蹴りがそこかしこに炸裂される。何も言っていない私にもそれはやって来たので、うわっと避ける。三人も無事に避けたかと確認してみれば、ウソップは避けきれなかったのか彼女の蹴りをくらい地面に倒れた。ご愁傷様です…ウソップ。
「何すんだお前!!」
「世界屈指の造船技術者に向かってアレだのコレだのどういうことですか!!」
突然の攻撃に憤慨した様子のルフィが彼女に食ってかかるが、彼女はそれを物ともせずキッとした目付きで彼らの言動が相応しくなかったことを述べる。しかし、冷静になったのかその後に「失礼…つい取り乱してしまいました」と佇まいを直す彼女。そんな彼女の横に「あんまりカリファを怒らせるなよ。この女は怒ると見境がない」そう言いつつ現れたアイスバーグの顔は右半分が腫れ上がっていた。い、痛そう。涙と鼻水を垂らしている彼に彼女ははっとした顔をしている。カリファって前々から思ってたけど、少し天然だよね。
 その後は、ココロからの手紙を破く彼にナミが驚きの声を上げたり、アイスバーグがあまりにも軽い様子で船の修理を請け負ったり、よくもまぁこの数分でこんなに濃い会話が出来るものだと感心してしまうような内容だった。そして、ドッグの中に入ろうとした所で、ウソップが一人立ち止まってきょろきょろしていた。
「どうしたの?」
「あ、あれ…金、金が…ねェ…」
そんな彼の元に寄って見れば、顔を青くして忽然と姿を消したケースを探すウソップ。え、あんな大金を…?そう思って辺りを見渡してみればヤガラブルに乗って今まさに話題になっているケースを両手に抱えた不審な男たちがいるではないか。
――人のお金盗むなんて…。
太陽の光をそれなりの時間浴びて疲労を覚えていた私は、彼らのしてやったりという顔を見た瞬間、軽く怒りの沸点を越えた。
待てェー!!と走って追いかけるウソップだったが、如何せん相手はブルに乗って水路の上だ。そう簡単に取り返せる筈も無く、スイスイと離れていく。
そんな所に同じく「待てェ!!」と誰かを追いかける数人の男たちの声が響いた。男たちの声がする方を見やれば、そこには何と懐かしいパウリーがいるではないか。多分、彼の後ろを走っている男たちは借金取りなのだろう。相変わらずギャンブルに塗れた生活をしている彼を見て、一瞬気が緩むがそれどころではない。私は日傘をぽいと放り出してウソップを追った。あのくらいの距離ならヤガラに飛び乗れるだろう。というか、いっそのこと水路にとび込んで火照った顔を冷やしたくなってきたが、それは後でも良い。今はルフィたちのお金を取り返すことが先決だ。
すっとウソップを抜かす際に、大丈夫と言うように肩をぽんと叩いて、私はヤガラに向かって跳躍した。それと同時に何故か上から飛び降りてくるパウリー。
「ん?…ってハァ!?おま、じゃねぇか!!んでこんな所に!?」
「ちょ、パウリーなんで落ちてくるの!?」
久しぶりの再会だというのに2人して、この状況に慌てていて感動するどころではない。私たちの出現に顔を歪ませる不審な男たちを視界に入れて、とりあえずこっちね!!と分担する。彼はケースがある方のヤガラ、私はもう一方のヤガラに飛び乗って鬼切安綱の柄の部分で彼らを伸して宙に舞わせた。向こうも同じようにロープで男たちを水路に落としていて、私はふぅと一息吐いた。良かった、これでどうにかなった。
パウリーは橋の上から借金取りが喚いているのを見て、嬉しそうに笑っている。まったく、もう。
「久しぶり、パウリー。突然で悪いんだけど、そのお金私の友達のものなの」
だから渡して。そう言って彼にヤガラブルで近付いていくと、これか…とケースを見つめていた彼の顔がぱぁあっと明るくなる。あれ、何か嫌な予感。
「あれ!?パウリーどこ行くの!?」
「ははっわりぃ!!ちょっと俺急用思い出した!」
近付く私から逃げるように速度を上げた彼に声を上げれば、彼は片手を上げてにこやかに笑いやがった。
急用って、どうせパウリーのことだからそのお金を使ってまたギャンブルしようとしているだけでしょうが!彼の悪びれもしない様子にこらぁ!!と大声を上げて彼を追おうとする。しかし、すとんと軽い音をさせて私のヤガラに飛び乗ってきた何かのせいでヤガラが不安定に揺れる。
「あのバカは俺が捕まえる」
ばっと後ろを振り返れば、そこにはルッチがいた。

 パウリーの耳を引っ張ってルフィたちの前に投げ出したルッチを見送って、私は1番ドッグの事務室にお邪魔していた。あまりにも長い間外にいたため、顔が赤くなっていたのをカリファが気付き、私だけを室内に案内してくれたのだ。そのせいでパウリーとしっかり再会の挨拶が出来なかったのが残念だけど、また後できちんと話せるだろうから、良いか。多分今頃ルフィたちはルッチとパウリーの濃さに驚いている頃だろう、と思いながら事務の女性に出してもらった冷たいお茶に口をつける。ああ、生き返る。私の足元では同じようにアリシアが水を一心不乱に飲んでいた。猫は毛が多い分人間の姿の時よりも多くの水分を消費するのだろう。
数人の社員たちが書類と向き合っている中、部屋を見渡してみると壁際に電伝虫が置いてあるのが目に入った。そういえば、まだ一度もマルコに連絡をしていなかった。何だかんだで電伝虫を見かけることがなかったのだ。
「すみません、ちょっと電伝虫お借りしても良いですか?」
「ええ、どうぞ」
近くの席にいる優しそうな女性に訊いてみれば、彼女は快く了承してくれた。私はそれに礼を言って受話器を取る。モビー・ディック号の番号を回して、数秒間プルプルプルプルと電伝虫の声を聞きながら誰かが出るのを待つ。モビーでは操舵室に電伝虫が置かれているから、きっと誰かしらいるだろう。
「もしもし、どちらさん?」
「私、だよ」
暫くして出たのは、イゾウだった。少しばかり警戒した声音の彼に、名を出せば何だお前かと安心したようだった。確かに突然知らない番号から海賊船に電話がかかってきたら警戒されても仕方ないだろう。
「今ね、ウォーターセブンにいるの。ついさっき着いたところ」
「ウォーターセブン?お前そんな所まで戻ったのか」
これまでの航路をかいつまんで彼に伝えれば、彼はお前そこの造船場好きだったもんなァと懐古しているようだった。それにうんと返して、マルコは今近くにいるかと訊いてみる。しかし、丁度今いる島の偵察に出てしまっているようで、話すことは出来なさそうだった。
「俺がマルコに伝えといてやるよ」
「ほんと?じゃあ、暫くウォーターセブンにいるって言っといて」
「ああ、気を付けろよ」
そんな会話に二言三言付け足して、私は受話器を下ろした。電話が終ったので、もう一度彼女に礼を言って窓際に移る。そこからは、丁度ルフィたちがアイスバーグたちと話している様子が見える。
――早く、メリー号を直してもらえると良いね。
そう思いながら、壁に寄りかかって、彼らの期待に満ちた横顔を見つめていた。


2015/03/16
If I could turn back the time,

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