置いてきぼりロンリネス

「うわー!うわー!」
、あんまり身を乗り出すと落ちるぞ」
徐々に近づき始めている次の島――島というよりは諸島だ――シャボンディ諸島を、甲板の上から目をきらきらさせて眺めている。俺はいつにもましてテンションの高い彼女――ああいった不思議な島を見たことがなかったからだろう――が海に落ちないように後ろで眺めている。
「あれ!あの、ふ…ふうせんなんてなまえ?」
「あれはシャボンだ」
「しゃぼん!おおきいー、とんでる!」
すごいね、すごいねとはしゃいでいる彼女を眺めているのはとても楽しい。すぐ側で俺と同じように彼女を眺めているヒートとワイヤーも、そんな彼女を見て和んでいるようだった。
ぴょんぴょん跳ねて身体全体でどれほど自分が驚いているかということを表現した彼女は、ようやく落ち着いたのか甲板に座り込んだ。
「ったく、シャボンディ諸島くらいではしゃぎやがって」
「良いじゃないか、初めてなんだから」
船の中から現れたキッドは彼女のはしゃぎっぷりを見て鼻で笑った。まるで俺らが田舎者じゃねえか、恥ずかしいなんて彼は口にしているが、彼女を見る目が平生のように鋭くないのを、気付いているのだろうか。


 私は今回の上陸がとても待ち遠しかった。だって、シャボンディショトウっていう島は大きなシャボン玉がいっぱい空に浮いていて楽しそうだし、キラーから聞かされたユウエンチっていうのも面白そうだから。たぶん、ユウエンチっていうのは遊園地のことだろうなぁ。遊ぶみたいなこと言ってたし。
私は島に着いたら何をしようかなと色々考えた。遊園地は絶対に行きたいし、あとご当地ものを食べたりしたい。今は、楽しく島を回れるようにお洒落だってしている所だ。お洒落といっても私のお気に入りの洋服と、キッド船長から貰ったネックレスを付けるだけだけど。
ふんふんと機嫌良く必要なものをポシェットに入れていく。お金と、ハンカチ、ティッシュ…エトセトラ。
よし、準備万端だと思った丁度その時、甲板で島に到着したことを伝える大きな声が響いた。私はそれに胸を躍らせて甲板に向かって駆けた。


、気を付けろよ」
「うん、うえみちゃだめ。わかった?」
「分かった分かった」
縄梯子を降りる際、私が落下することを恐れたキラーが私よりも先に降りると言い出した。別にそれくらい大丈夫なのに。どうにも彼らは彼らほど手足が長くない私のことが心配らしい。どんくさいって思われてるのかな。自分ではそこまでどんくさいとは思っていないんだけど。
風でふわふわとなびくワンピースの裾をどうにかしながら私は縄梯子を降り切った。キラーも約束通り上を見ていなかったようで安心。
やる気まんまんな私と違って、至ってこの島自体には興味ないといった顔で降りてきたキッド船長。彼はくわと欠伸をしてずんずん歩き出した。
、今この島には海軍がうようよいるから俺たちとはぐれるなよ」
「かいぐん?なに?」
キッド船長は少し気がかりなことがあるのか、私を見下ろしながらそう言った。まさか気がかりの種が私だとは思っていなかった私は単純に分からない言葉を彼に訊ねる。海軍ってのは、俺たちの敵だ。そう返した彼に頷く。敵か…じゃあ気を付けなきゃ。そう意気込みながら私はリーチの長い彼らにおいて行かれないように早歩きでついて行く。
――しかし彼らはこの島をそれなりに楽しむ気はあるらしい。途中でお土産コーナーにも行ったし、そこでいくつかシャボンディショトウのグッズを買っていた。そして、今私たちはお腹が空いたのであるレストランで食事をしている。因みに、キラーは先程自由行動を始めて、今はいない。
だけど私はご飯を食べるどころではなかった。少し離れた所でピンク色の髪の女の人がものすごい勢いで料理を平らげているのだ。一緒にいた男が「、口が開いているぞ」と指摘してきたけど、私はそれを直すような余裕は無かった。
「おかわりまだか!?なくなりそうだ!!!」
――ピザお〜か〜わ〜り〜!!!
轟いたその声に私はまだ食べるのかと目を丸くした。すごい、世界にはあんなに大食らいな女の人がいるんだ。すごいね、キッド船長。そう言おうと思って彼がいる席を見ると、彼はすくっと立ち上がって隣の席に近づく。
どうしたんだろう。そう思って彼を見つめていると、彼はそのままその席に座っていた人に殴り掛かった。
「きっどせんちょー!」
私は驚きの余り声を上げてしまった。だ、だっていきなり人に殴り掛かるなんて。しかし、被害者の人は彼の拳が当たる前に避けていたらしい。空振りした拳が壁に大きな穴を開ける。はここにいろよ、と言って彼に近づいていく男に頷いて私は大人しく席に座っていることにした。
「オラッチの強さ知らねェな?」
「ムナクソ悪ィ野郎だぜ……今消してやってもいいんだ」
がらがらと崩れた壁に手をかけて、彼が外に出る。彼が睨みつけているのは、腕の間接が二つある男の人だった。なんとなく、見た目から音楽が好きそうに見える。お互い仲間が止めているにも関わらず火花を散らし合って、今にも戦いを始めそうな勢いだった。
こ、怖いなぁ。ここにいると巻き添えをくらいそう。そう思った私は、避難しているお客さんに紛れて少し遠巻きに彼らを眺めることにした。だけど、ここからだと前の人が陰になっていてちょっと見にくい。けれど私の命が最優先だ。キッド船長たちの戦いに巻き込まれて死亡だなんて笑えないもん。
ざわざわと騒がしかった店内が徐々に静かになっていく。
「……?」
どうしたんだろう、もう終わったのかな?席に戻って食事を再開した人たちを見て、私はその場所を離れてキッド船長が開けた穴から外を覗いてみた。
『え!!?』
――キッド船長たちが、いない。そんな、どういうこと!?
私はきょろきょろ周りを見渡すけれど、彼らの姿は無かった。ま、まさか……。騒ぎのせいで私の存在、忘れられた?

『うわあああん!!キッド船長たちのばかぁあ!』


2013/05/26

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