もしも麦わらの一味に拾われていたら

※(キッドverのパラレル世界)

 麦わら帽子を被った髑髏の旗が風に煽られている甲板の上にて、私は追い詰められていた。
「なあ、お前なんで上手く話せねぇんだ?」
目の前に迫る私と同年代の青年、ルフィのドアップに私は慌てることしかできない。近い近いと手を彼に押し出すけれど、心底不思議だと言うように寄せられた眉毛とへの字口がぐぐぐと私に近寄る。
「おいこらクソゴム。ちゃんを怖がらせるな」
「別に怖がらせてねーよ。話聞いてただけだ」
ゴンッと彼の頭の上にマグカップを振り下ろしたのはサンジ。私を人攫いたちから助け出してくれた優しい人だ。
どうしてこのような状態になってしまったかと言えば、遡ること数時間前。
 私はキッド船長たちとはぐれてしまって、結局彼らを見つけることが出来なかった。どうやらこの島に海軍の凄い人が沢山来ていたらしく、きっと私を探す暇が無かったのだろう。
せっかく、サンジたちが一番グローブまで連れてきてくれたというのに申し訳なくて、ずっと一緒にいた彼らがいなくなってしまって悲しくて私はみっともなく泣いてしまった。
そこでサンジが麦わらの一味の船長であるルフィに、私を居候として置くことを提案してくれたのだ。期限はキッド海賊団に再会できるまで、というもので彼らの優しさにまたまた涙が出てしまった程。
旅をしていけば、いずれ再会できるわよと笑ってくれたナミに、私は漸く笑顔を向けることができて、彼らの厚意に甘えて暫く彼らと共に旅をすることになった。
 そして今は丁度自己紹介が終った所で、ルフィが私の言葉の拙さを不思議に思って迫ってきていたのだ。彼はサンジに諭されて一端私から身体を離す。あまりにも顔が近かった彼が離れてくれて、私はほっとした。
「わたし、はなす へたくそ。でもがんばる」
「おう!頑張れ!!」
これからお世話になる船の船長である彼に、頑張りますと決意の籠った目を向ければ彼はにかっと笑う。わーい、優しい船長さんで良かった!とりあえず堅苦しいのは終わりだ、とウソップとトランプで遊んでいたチョッパーに話しかける。
「ちょっぱーちゃん、いっしょにあそぶ」
「良いぞ!」
良い?と首を傾げると彼はにこっと笑ったので、私は彼のことを抱き上げてウソップの前に座る。わ、と驚いたチョッパーに「だこ、いい?」と今更ながらに訊けば「うん」と快く頷く彼。わ〜、チョッパーふわふわで気持ち良い。
どうやら今は戦争というゲームをしていたらしい。俺たちが終るまで少し待てよとウソップが言うので、うんと頷いて彼らがカードを引いて手持ちのカードを増やしたり減らしていくのを見ていた。
段々と見ているうちに、このゲームのルールが分かってきて面白くなってきたのだが、そんなに長く続かなくて勝者はウソップになった。
「っしゃー!俺の勝ちだ!」
「うそっぷ、おめでとー!」
「ウソップ!次は神経衰弱だ!!」
喜ぶウソップにぱちぱちと拍手をすると、チョッパーはムキーと新しいゲームを提案した。“神経衰弱”が何なのか分からなくて、2人に訊ねれば言葉を知らない私にも分かるようにゲームのルールを説明してくれた。ああ、なるほど神経衰弱か、と彼らの説明で理解してカードをばらばらにしてじゃんけんをする。
「わたし、いちばん!」
「順番は関係ないな!」
、がんばれ!」
見事チョキで勝利を収めた私は、早速近場のカードに手を伸ばした。

 私と同い年なのに、大分小柄で色々抜けている少女が楽しそうにウソップとチョッパーと遊んでいるのを見る。途中からルフィまで参加して、白熱しているらしい。たかがカードゲームにきゃっきゃっと盛り上がっている彼らの精神年齢はまるで子供のようだった。
「ナミさん、苺のシャーベットはいかがですか?」
「あら、ありがとう」
すっと私の横に立った男は、をこの船に招いた張本人であるサンジ。私へと微笑みつつ、子供のように盛り上がっている彼ら、というよりはそれに加わっているへと視線を向ける。きっと、彼女が彼らと打ち解けているのか気になったのだろう。そんな彼は楽しんでいる様子の彼女を見て顔を緩ませているが、そんな彼女に近付いた影に眉を寄せる。
「あの〜、さん。パンツ見してもらって良いですか?」
「駄目に決まってんだろこのエロガイコツ!!」
きょとん、と言葉を理解していないのかブルックを見上げる彼女のもとにびゅんと飛んでいくサンジ。その勢いのままブルックの背中を蹴り飛ばしている彼を見て、はあんぐりと口を開けていた。その間抜けな顔を見ていると自然と笑みが零れる。
更にそんな彼女たちのもとにフランキーが近付く。居候とはいえ、新しい仲間に興味津々なのだろう、お決まりのポーズでバーンとに「楽しんでるか?小娘!」と笑いかける。何を思ったのか、彼女は膝からチョッパーを下ろし、彼と同じポーズをして「たのしい!」と叫ぶではないか。
とうとう笑い声を抑えきれなくてあははと笑ってしまった。まるで完璧にこのポーズを出来ただろうとばかりにドヤ顔を晒している彼女に、増々笑えてくる。サンジはの様子に「そんなポーズしなくて良いんだよ!」と慌て、フランキーは「小娘!もっと腰はこうするんだ!」と教える。ウソップたちは彼女の様子にげらげら笑って似てるぞ!!と彼女を囃し立てていた。
少し離れた所で読書をしていたロビンまで微笑ましそうに笑っていて、きっとジムにいるあの筋肉馬鹿もこれを見ていたら小さく笑っているのだろうと想像した。

 夕食の時間に向けて料理の準備をし始めた俺がいるキッチンに、遠慮がちにやって来た少女が一人。さんじ、と少し離れた所で小さく俺の名を呼んだ彼女は俺が振り返ると嬉しそうに笑った。
「わたし、てつだいする」
「ありがとう、ちゃん」
にっこりとした笑みのまま、彼女の言ったことに微笑む。彼女はキッド海賊団でコックをしていたというから、きっとそう言うだろうとは思っていた。だけど、やはりそれに頷くことはできない。彼女は女の子だし、今は客人だ。ゆっくりと寛いでいてほしかった。彼女にそれを伝えると、暫く言葉を理解しようとしていたのか無言になるが、数秒後に不満そうな顔になった。そして身振り手振りで何やら伝えようとしてくる彼女。その顔は伝えたいことを思うように伝えられずにいる子供のようにどことなく必死で。
「わたし、おせわされる。なにもしない、ごめ、んなさい?えと、わたしがんばる、るふぃいった」
んむむ…と頭を捻りながら紡れた言葉は到底文章になっていなくて支離滅裂だったけれど、彼女の言いたいことは伝わった。大方、お世話になっているのに何もしないのは申し訳ないということだろう。
そんなこと、気にしなくて良いのに。俺が勝手にこの船に連れて来たんだから、彼女はただ楽しそうに笑ってくれていれば良いのだ。
彼女の心遣いが嬉しくてはは、と小さく笑えば、「えと、えと…」とまた頭を悩ませている彼女。
「さんじ、わたし、いや?」
「まさか」
色々言葉が省かれている気がするけれど、もちろんその答えはノーだ。むすっとしている彼女を見て、その質問は卑怯だよなぁと内心苦笑する。そんなことを言われたら、もう断れないではないか。
諦めて、じゃあよろしくと彼女に微笑めば、彼女の表情はぱぁっと明るくなった。コック仲間の彼女と一緒に料理をするのも悪くない。寧ろ、楽しいに決まっている。
だが、危ないから刃物に触らせる気は無く、とりあえず今晩の料理に必要な野菜を洗ってもらうことにした。その間に俺は肉や魚に下味を付けておく。
背が低い彼女にとって、俺の身長に合わせて作られたキッチン台は些か使いずらいだろうが、そんなことを気にしていないのか彼女はるんるんと野菜を丁寧に洗っていた。
「……どうしたの?」
「さんじ、みてる!」
隣からきらきらとした視線でこちらをじいっと見てくる彼女に悪い気はしない。しかし、そのあまりにも輝く瞳で見られると照れるというもの。我慢できずに彼女に声をかけてみれば、彼女はきりっとした顔を作って俺を見上げるではないか。
俺を見ているのか。確かにそうだろうけれど、そういうことを聞きたかったわけではないのだが。
はぁ〜、こんなに純粋な目で見られると調子狂うぜ。ぽりぽりと痒くも無い頬をかけば、彼女はにっこり笑った。
「さんじ、りょうりじょず!わたし、べんきょうする」
「そっか。皆盗んで良いよ」
そういうことか。俺の料理の作り方を見て彼女なりに勉強しているのか。彼女がじっと俺を見つめていた理由が分かって気が抜ける。少しでも甘いものを期待していた自分が肩すかしを食らった気分だったが、真面目に料理に取り組む彼女に好感を抱いた。
彼女は盗むという言葉に反応して「ぬすまない、ぬすまない」と途端に慌てだした。きっと勘違いをしているのだろうと分かったが、彼女の必死に弁解しようとしている顔が面白くて可愛くて、暫くそのままにしておこうと考えた俺は意地悪だっただろう。

2015/04/30

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